小説 夢の中
□青色ジュース缶
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「なんか、喉渇かん」
そう尋ねてきたのは、隣に座る昭仁先生。
最近私の表情が暗いから、と個別相談室に呼ばれているのである。
『そうですかね、昭仁先生緊張しとるんやないですか?』
「はは、何でわしが緊張せないけんのよ」
鼻で少し笑い、彼はそう言った。そっか、緊張せんよね、私なんぞには。色気も茶目っ気もない私には。
『ごめん勘違いでした〜。で、何のようなんですか』
ため息をつきながら、本当の用件を探りだそうと問う。
「ん、やけん、最近暗いけどどしたんかなと。一応わし先生やけん、そしてあんたの担任やけ、気になるんよね」
やはりそれだけなのか。"本当は私が気になっとるから〜"とか、マンガみたいな事言われるかと期待した私の気持ちは散った。
『あ、そうでしたね。大丈夫です、私すごく元気やけん』
「なんか、悩み事とかないん」
『悩み、ですか。えっと…』
私は考えるフリして目線をそらす。でも本当はすぐに思いついていた。
けれど、
昭仁先生が好きで好きで困ってます。私が話し始めると、目を見開いて真剣に聞いてくれる。ひいきとかしないし、授業も分かりやすいし、親しみやすいし、皆からも好かれている昭仁先生が好きです。
なんて、言えない。
えっと、の次に続く言葉を、やはり真剣に聞こうとしてくれている昭仁先生には申し訳ないけれど、そんなこと言えないです。
『なんにも、ない‥です』
「おお、そかそか。分かったよ、悩み事あったら言ってええけんね!」
松岡修造のようなとびきりスマイルで私の肩をパンパンと叩く。
個別相談室から二人が退室すると、通りすがりの女生徒が私を睨んだり、驚いたような顔で見るのを感じた。
昭仁先生の人気は圧倒的なのである。