小説 夢の中
□マーマーレードな時間
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甘い匂いが部屋中に立ち込める。匂いにつられて起きたのか、あっくんが台所にやって来た。
「おはよう。早速作りよるんじゃ」
『うん、そうだよ』
と、私は鍋の中のみかんたちを混ぜながら軽く頷いた。
『マーマレードってさ、皮も食べられるからいいよね』
「そうやのお。でも、砂糖がたくさん入っとるけえ、わしにはちょっとつらいかな」
わたしは鍋に砂糖を継ぎ足しながら、聞き返した。台所から部屋へと、再び甘い匂いがふわ、と流れた。
「だって、わし糖尿病になるのがこわいのに」
苦笑いをすると、彼は目を見開いて今度は言葉に力を込めて訴えてきた。
「糖尿病予防は大事なことなんよ。それとも、わしがそれになって先に逝ってしもおてもええんちゅうんか」
そんなに糖尿病について気にしているなんて。新しい発見をしたなと呑気に思っていたら、鍋の底がやや焦げ付いてきていた。
『ああ、大変だ。火強すぎたのかな』
「今に見とけよ」
慌てて火を弱めるわたしに、彼はそんな事を言ってきた。そして、そのまま立って洗面所へと向かって行った。怒っちゃったのかな、と少し心配しながらも、手元のみかんたちも心配しながら、朝は始まった。