小説 夢の中
□俺のこと
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「ほら、 名無しさん、しっかりせんかあ」
『家でやってくるから、お願い、帰らして~』
と言うけど、本音は帰りたないんやろ、名無しさん 。
『じゃあテレビつけてよ~、それなら真面目にやるから』
「アホか!テレビ無くても真面目にできるよ、お前ぁなら」
ちょっとした褒める作戦。 毎回、これだけで直ぐにやる気出すんやけ。
俺は、新藤晴一。この春、新一年生と共にここに入学してきた。
そして、学校生活を送っとるうちに、気付いたことがある。
まずひとつ、生徒たちに少し厳しくしすぎたこと。前の学校で生徒に優しくし過ぎて、生徒が言うことを聞かなくなったけぇ、ここへきて優しさを保ちつつ、厳しく指導していたら、いつの間にか生徒たちから距離を置かれてしまっとった。
『……先生、どうしたんですか?ボーッとして』
そしてもうひとつ。今目の前にいるこの子が、俺に夢中だってこと。ほぼ白紙で答案用紙を出す割には、補修で同じような問題を出すと全問正解だったり、俺にやたらお近づきになったりと疑わしい行動を何度となく見てきて気付いた。
「ん、ああ、何でもないよ」
『ちょっと仮眠していいですか~』
ふわあ、と彼女は大きく口を開きあくびをした。
「あくびをするときは、手で隠さんと。一応お前ぁは女子なんじゃけ」
『一応ってなんです‥かあ‥』
自身の腕を枕にし、その中に顔をうずめて3分程。彼女は微かな寝息を立てて、眠ってしまった。