音感反射神経

□お菓子作り
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部屋に充満する甘ったるい匂いのせいで、クラクラする。

でも、あいつが喜ぶなら…



「あぁぁぁもう…」

さっきから、失敗続き。

上手く出来ない。

3時から始めた筈なのに。

もう辺りはうっすらと橙色に染まっている。


チョコを溶かして、固めて。
生地を混ぜて、焼いて。

それだけなのに、どうも上手くいかない。

「手先の器用さには自信あったんだけどな…」

ため息をついて、もう一度。

混ぜて、並べて焼いて。


「甘ったるい…」

焼いてる間に漂う匂い。


……ハヤトなら喜ぶんだろうな。
そう思っただけで、脳裏に浮かぶ人懐っこい笑顔。


「…………はぁ。」

溜め息をつきつつも、頬は緩む。

まぁ、あいつのためなら。


そろそろかな、とオーブンを覗き込む。

あぁ、今度は上手くいったみたいだ。



お菓子作りってのは神経を使うんだな。
思ったより、疲れた。


それでもあと少し。

固めたチョコは、上手くいっただろうか。

心配になって、冷蔵庫を見てみる。


なんとか、様にはなってる…のか?
お菓子なんて作らないから、わからない。

けどまぁ悪くはない…と、思う。

でも、味見は必要だろうな…。

冷蔵庫から小さな欠片をひとつ取り出し、扉を閉める。


…正直、したくはないが…不味いものを、渡したくない。


決意して、一口。


「……あっま………。」

案の定。チョコレートの味。甘ったるい。
ほろ苦さはほんとに少し。甘さがキツくて苦さなんて無いに等しい。


そうこうしている内に、後ろからピーというオーブンの焼け上がりの音が聞こえた。


「あー…」

口の中に残る甘ったるさに顔をしかめつつも、オーブンを見に行く。

「お…。やっと綺麗に出来たか…。」

オーブンから鉄板ごと出して冷ます。


その間に、エプロンを外して椅子の背もたれにかける。


「はぁ…。」

椅子の背もたれに手をおき、体重をかけるようにしゃがみこむ。
疲れた。体が重い。


…クッキーも、チョコも初めてにしては上手く出来た方だとは思う。


そう思いつつも立ち上がり、椅子に腰掛けると気が緩んだのだろうか。
気がつけば寝ていた。




で、起きた頃には周りは真っ暗。

「…ん、えっ今なんっ…」

暗い部屋の中、机の上でメールの着信を知らせて光るケータイが目に入った。

手を伸ばし、開く。
時間はもう8時。

「…だいぶ寝てたな…。」

それから、来ていたメールを確認。

「…あ。」

ハヤトからのメール。

…3通。


返信をして、欠伸を噛み殺しながら立ち上がって電気をつける。


晩飯をどうしようかなんて考えながらも、返信した相手の明日見るだろう顔を想像して、一人で微笑む。


ああ、楽しみだな。





お菓子作り
(ヒューさん、これ…)
(なんつー顔してんだ、お前)
(だって、嬉しくて…!)
(…そうか。)
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