音感反射神経
□いきなりの出来事。
1ページ/1ページ
「ヒューさん!遊びに来ました!」
背後から聞こえる、少し高めの声。
「…お前…また来たのか。」
仕事中、ハヤトがまた遊びにきた。
慕ってくれるのはいいが、俺は今バイクの整備中。手は離せない。
「だから仕事中は相手できないんだって何度言えばわかるんだ…。」
「えー?でも俺、ヒューさんに会いたかったですし。……ダメですか…?」
語尾が弱々しくなったのを感じて、ふと振り返ってみる。
……そんな捨てられた子犬みたいな顔で見つめられても…
「…いや、ダメというわけじゃ…」
「じゃあいいですよね。」
パッと明るい表情に戻るハヤト。
ああもう…
こうなったらさっさと終わらすしかない。
バイクの方へ向き直る。
そして始まる、恒例の会話というか、ハヤトの一方的な話。
「ヒューさん。そういえば、甘いの嫌いっていってましたよね。」
「あっ、そういやこないだ学校で…」
よくまぁそんなに話すことがあるもんだと、もはや感心する。
…しっかりとは聞いてはいないが。
それでも、多少ハヤトの事はわかるし、何よりハヤトの話は上手くて聞いていて飽きない。楽しかった。
が、今日の話は、本当に予想外で正直、驚きを隠せなかった。
「あ、そういえば、ヒューさん。」
「俺、今日伝えたいことがあって来たんですよ。」
「ちょっと真剣に聞いてくれませんか?」
普段、俺の仕事中には、一方的には喋るが決して返事を催促しないハヤトにしては珍しく、そんなことを言うもんだから気にはなったが、やはり仕事が優先。
「後にしてくれ、今手が離せないんだ。」
気にならない訳じゃない。
だが、このバイクのが終わってからでもいいだろう。
「そうもいかないんですよ。今日は俺、この後用事がありまして。」
…じゃあ雑談の前に先に言えよ。
そう思いつつも、心なしか急ぐ手元。そして一旦きりのいい所まで来たので、手を止めハヤトの方へ向き直る。
「…で、なんだ?話って…。」
「あー…、ヒューさん驚かないで聞いてくださいね。」
「いいから早く言えよ。まだ仕事は途中なんだ。」
「わかりました。じゃあ、単刀直入に言います。ヒューさん、俺、貴方が好きです。」
…ん?
「…?…俺も、まぁ…好きだぞ?普通に。慕ってくれてるのは解ってるし、なんだかんだでいい奴だしな。」
「そうじゃなくてですね。」
…そうじゃなくて?
え、でも…いやまさか。それはないだろう。
だって、俺は
「俺はですねヒューさん」
男だし、
「ヒューさんが、恋愛対象として、好きなんです。」
…まさかだろ…。
「えっ………は…?」
この事態に頭が追い付かない。
言わばこれは、告白ってやつだろうか。
「じゃあ、今日はもう伝えたいことも伝え終わりましたんで俺、帰りますね。」
呆然としている俺を置いて、ハヤトはさっさと帰って行く。
俺は只、黙って見送ることしか出来なかった。
そして、その日はもう何をしても手付かずで、ハヤトの言葉だけが、頭を埋め尽くしていた。
いきなりの出来事。
(やっばい言っちゃったよ!俺、とうとうヒューさんに告っちゃった!)