音感反射神経
□birthday
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「ヒューさん!遊びに来ましたよー!」
「おー、もうちょっとで終わるから、その辺で待ってろー。」
「わかりましたー。」
今日はヒューさんの誕生日。
でも、本人は誕生日というものをそんなに大切に思っていないらしく、俺が誕生日を知ったのだって、たまたまヒューさんの上司さんとお話する機会があって、その時に偶然聞いたぐらいだ。
「待たせたなー。」
「いえ、全然大丈夫です。仕事してるときのヒューさんの真面目な顔とか見惚れますし!」
「お前なぁ…。」
少し照れくさそうにするヒューさん。
そういう照れ屋な所も、俺は好きです。
「そういやハヤト、俺今日さ」
ヒューさん家への帰り道。
唐突にそう口を開いたヒューさん。
あれ?意外。自ら言うのかな?と思いきや。
「仕事誉められたんだよな、最近良くできてるなって。」
…前言撤回。
やっぱりヒューさんは、自分の誕生日とかどうでもいいんだろうか。
でも、俺としては大切な人が生まれた日だし、ちゃんと祝いたい。
「でな、俺今までは結構ミスが多くてさ、よく叱れてたんだ。でもハヤトと出会ってからは、結構ミスも減ってさ。」
「………。…え?…や、やだなぁヒューさんってば、俺のおかげみたいな言い方してー。」
少し考えながら話していたせいか、遅れて反応してしまった。
「……ハヤト、お前熱でもあるのか?」
「…無いですよ?」
「そうか。いや、普段はあんまりボーッとしてるとかないから、熱でもあるのかと思ったんだけど…ま、気のせいか。」
しまった、心配なんてかけてどうするんだ。
「大丈夫ですよ。心配ありがとうございます。」
「ん、大丈夫ならいいさ。」
…ヒューさんは本当に優しい。
こうやって、ちょっとの事でも気にかけて心配してくれる所とか、困ったように笑う顔とか、照れた顔も真面目な所も全部大好きで、そんな彼がこの世界に産まれたことを感謝したくて…。
…本当はもっと、かっこよく伝えるつもりだったんだけど。
「ヒューさん。」
「ん?どうしたハヤト?」
「俺、ヒューさんがここにいてくれる事がとても嬉しいんです。だってもし、時代、国、世界が違ったなら、きっと出会えてない。」
「…?…まぁそうなるな…。」
「でも、産まれてなかったら、そもそも出会えないんです。」
俺が唐突に話を始めた時は、よくわからないという顔をしていたヒューさんも、ここまで言えば流石に気が付いたらしい。
ヒューさんの前に立ち止まって目を見ると、照れ屋なヒューさんもそらすことなく、俺が言葉を紡ぐのを待っている。
なら、俺なりの感謝と祝福の言葉を。
「俺、ヒューさんがこの世界にいて下さって、しかも出会えてさらに今、隣でこうして話し合える。それって、この広くて長い世界では奇跡的だと思うんです。」
黙って聞いているヒューさん。
もっともっと、伝えたい事はたくさんあるけれど、それはこれから時間をかけてゆっくり伝えていけばいい。
今日は、この言葉を伝えたくて。
「ヒューさん、お誕生日おめでとうございます。
産まれて来てくれてありがとうございます。」
ヒューさんは恥ずかしいんだろうな、耳が真っ赤だ。
でも、俺も今きっと。
言い終わってすぐに、お互いに恥ずかしくてうつむいた。
「………ハヤト、ありがとうな。」
小さな声だけど、確かに聞こえた
birthday
(来年は、もっと気合いいれてちゃんとしますね。)
(…もう充分だ。)