音感反射神経

□新たなる始まり
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どうしようか…
どう伝えるべきだろうか…

ハヤトの学校の帰り道にある、町が一望できる見晴らしのいい丘でぼんやりと考えながら、彼が来るのを待つ。


…大丈夫だろうか、もし拒絶されたら…?
あいつはまだ学生だし、自分だってまだ貯金だとかそんなの、ほとんどまだない。

それなのに、まさか…


一人で考えれば考える程、どんどん思考はマイナスになってゆく。

どうしようか…と悩んでいた矢先、
「ヒューさん、話があるってなんですかー?」
背後から待っていた人の声。

振り向くと、やはり彼がいて。
目が合うと嬉しそうに笑って、昨日ぶりです、なんて。

「ハヤト…。まぁ、ちょっと。」
目を見ていられなくて、そらして語尾を薄くぼかした。

「ちょっと?」
が、ハヤトはばっちり汲み取る。

「いや、まぁその…。」

結局、呼んだはいいがどう伝えればいいかわからない。
もし拒絶されたら?と、嫌な考えしか出てこなくなり、何も言えなくなる。

気がついたら、俯き泣きそうになっていた。


「えっ、えっ?ヒューさん、どうしたんですか?どこか痛いんですか…?」

いきなり泣きそうな顔になったのを見て、ハヤトは少し焦ったように語りかける。

「あ、あのな…その、…だから……」

…ダメだ、視界はにじんでくばかりで、言葉の整理が出来ない。


「ヒューさん………俺、聞きますから。話して下さい。」

ハヤトは心配そうに頭を撫でながらも、真剣な声色で話すことを促す。

…どっちにしたって、言うしかないんだ。

覚悟を決めて、言葉を探す。
「あ、あのな…もし嫌だとか言われても、もうどうしようもないからな…?」
目から溢れるものは、止めようがなく、頬を伝って流れ落ちていく。


「…はい。大丈夫です。ちゃんと、聞きますから。」

ハヤトの目を見て、その真剣な眼差しを確認してから。

「俺だって、始めは信じられなかったんだ。だから、今いきなり結論を出すとかは、考えなくていい…。」

そう前置きしてから。
一度、大きく息を吸って、目をあわして、

「今、俺の中にはもう一人、お前との子が、いるんだ。」

…とうとう言ってしまった。

もう取り消せない。


ハヤトは、驚き目を見開いて硬直している。

…やっぱり、ダメだったか…?

そう思って視線を反らした直後。

「………よしっ…ヒューさん、結婚しましょう!!」

「………は?」

「俺たちの子供が出来たんですよね!?じゃあもう結婚ですね!」
抱きつきながらそう叫ぶハヤト。
位置的に丁度耳元だから、耳が痛い。

「え、いやうるさい叫ぶな。それにちょっと待て。」

こんなのは、予想してなかった。
だって、ハヤトはまだ学生だし…。

「今すぐ結婚しましょうヒューさん!責任とります!」
そりゃ、拒絶されたらどうしようとしか思ってなくて、この展開は泣きたいくらいすごく嬉しいけども…。

「いいのか…?お前、学校どうすんだよ…。」


「あ。」


考えて無かったのかよ。


ハヤトは離れてから、しばらく黙って悩んだあと、
「……今、9月ですよね?」

「…それがどうかしたか?」

「じゃあ、俺学校3月の始めに卒業するんで、卒業した日にもう結婚しましょう。」

「…本気か?」

「本気です!」


…まぁ、こいつなら本当にやるんだろうな…


少し、恥ずかしいが比べられないほど嬉しくて。

気がついたらまた涙が溢れていた。
「えっちょっ、ヒューさんどうしたんですか…!」

「いや、拒絶されるとばかり思ってたからな…。嬉しくて…。」


そう言った瞬間、強く抱き締められた。

「拒絶なんてするわけないじゃないですか…!」
大切な人と、俺の子供ですよ…?!と続けるハヤト。


あぁ、そうか…

そういえば、ハヤトはこういう奴だった。
俺は一人で、少し思い詰めすぎていたのかも知れない…。

体を離すよう促し、目を見つめて話す。

「なぁ、ハヤト…」

「なんですかヒューさん?…ああもう、そんなに泣かないで下さいよ…。」

「だって嬉しくて…。あのな、その…」

ハヤトの耳元で囁くように伝えた。

「俺なんかでよければ、よろしくお願いします。」

そして、それに満面の笑みで答えるハヤト。

「こんなにいいお嫁さん、世界中探したっていませんよ。」


それから俺をまた抱き締めて、

「幸せな家庭、作りましょうね。」と。




新たなる始まり。
(にしても、俺頑張った。)
(…は?)
(あ、いやなんでもないです。独り言ですよ。)
(お前、まさか……)

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