小説/銀魂

□たまにはこっちから
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 24日の今日はまた一段と寒かった。雪を降らせるような気は天気は利かせてくれなかったらしい。これは世の恋人たちが残念がるだろう。
 
 自宅への道すがら空を見上げ、土方は息をついた。今頃家では目つきの悪い男が待っているだろう。恋人と言ってやらないのはささやかな嫌がらせだ。数日前から江戸の土方宅へ押しかけてきた男は、いつもは盛んな夜の蜜事を全く要求してこないでいる。
 いつも己が嫌だと伝えても無理を強いてくるのにどういった風の吹き回しだろうか。もしかして飽きられたのか…。こんな不安は、自分の家に毎日いることが薄くしてくれているが、毎日顔を合わせているにも関わらず何もしていないのだ。土方だって男である。
(まぁ…詰まるところシたいわけで…)
 不安もあるが不満の方が大きかったのだ。相手がその気にならないのなら、と真撰組のクリスマスパーティーでもらった景品を懐で確かめる。当たった時はこんなふざけた物…と表面上怒ってはいたものの、きっと目が光ってしまっていただろう。総悟にしつこくからかわれたのもそのせいに違いない。
「寒…」
 土方は暗くなった家路を急いだ。


「ごちそうさま」
「お粗末様」
「ククッ。決まり文句だから仕方ないが今日は豪勢だったじゃねぇか」
 本格的ではないにしろクリスマスを意識した夕餉の食卓に素直な称賛の声を聞く。
「一応世間に合わせてな」
「手前が世間を気にするタマか?」
「煩ぇ。んなことよりさっさと次だ」
 左手にビン、右手に液体がなみなみと入ったグラスを持って土方が台所から出てくる。ここでもクリスマスを意識してか、日本酒ではなく用意してあるのはシャンパンだった。
「気が利くな」
「いつものことだろ」
「ククッそうかい」
 たわいない会話を続けながら、土方はグラスを差し出す。
「「乾杯」」
 チン、と軽い音を鳴らして2人はグラスを傾けた。


 酒に弱い土方のペースは遅い。が、土方の前に座っている男のペースは対照的に早かった。流石ザルなだけある。
「…」
「どうした?高杉」
 高杉が酔う姿など、土方は見たことがあっただろうか。いや、ない。自分より遥かに多い量を口にしているのに酔った高杉を土方は知らなかった。だが、今前に座る男の顔はわずかであるが確かに赤らんでいる。
(効いてきたみたいだな)
 土方が高杉に渡したグラスの中には、真選組のクリスマスパーティーで当てた景品である媚薬を仕込んでおいた。心の内で、薬が本物だったことに安堵する。
「土方…」
「なんだ?」
 聞かれなくても高杉の言いたいことはわかっている。熱を孕んだ目で見つめられて土方はたまらず立ち上がった。
 同時に腰を上げる高杉が土方を引き寄せる。
「シてぇ」
 と一言呟いた。
「俺もだ」
 土方の応えが始まりの合図。乱雑な足取りで高杉は寝間に土方を引っ張っていった。

              
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