小説/あまつき

□《捧》お祝い文
1ページ/6ページ

 夜中の真っ暗な部屋の中、小さな画面を覗き込む背中があった。
「えーと…彼氏が喜ぶえ、エッチな下着?これ、ほんとかな…」
 半信半疑、でも興味の方が強いといった口調。




 暫くして、カチッとマウスをクリックする音がした。


数日後。
「おい鴇、冷蔵庫の中なんもねぇじゃん。この状態で俺に何作れってんだ」
 久しぶりに手料理が食べたい。と、鴇時は紺を自宅に呼んでいた。
「あはーごめんごめん。最近忙しくてインスタントばっかだったから野菜とか買ってないんだ」
「ったく。そこら辺にスーパーあったよな」
「あるよ。悪いけど俺は買い物行けない」
「はぁ?なんで」
「そろそろ荷物が届くから、受け取らなきゃ」
「しょうがねぇな…」


 渋々と玄関へ向かう紺を鴇時は笑顔で送り出した。


 紺が買い物に出てから十数分経っただろうか、鴇時の自宅のインターホンが鳴らされた。


「!!…はーい。今行きます」
 少し緊張した面持ちで印鑑を持っていく鴇時。宅配便のお兄さんが箱を見て微妙な顔をしていたことは無視だ。
「…届いた」

 手料理が食べたかったのは嘘ではないが、鴇時にとって本当の目的はこれである。何か特別な日か、と問われても何もないがなんとなく己の恋人を喜ばせたくなったのだ。方法が方法だが…。
 小さな段ボールを抱えて素早く部屋に入る。わざと冷蔵庫を空にし、紺を買い物に行かせたのだから今の内に着替えなければ意味がない。無論、紺は今日泊まっていくだろうから必然的に夜の営みもあると踏んでのこの行動だ。
 理由の分からぬ高揚感を抱えながら、鴇時は包みを開けた。中の布切れを早く身に付け、何事もなかったかのように紺を出迎えるために。


「ネットで見たやつは…こっちが後ろだったな。うん。だってこっちが前とか恥ずかしすぎるだろうしってか恥ずかしいし」

 うんうんと1人納得した鴇時はズボンと下着を脱ぎ、片足をその『布切れ』に通した。


「ただいま」
「!!??」

 まだ鴇時が片足を通しただけで紺は帰ってきた。買い物の仕方が上手いのだろう。彼は良い主夫になれる。

「鴇?いないのか?」
 直ぐに返ってくると思っていたおかえりの声がない。疑問に思った紺が足元を見ると、鴇時の靴は己が出かける前のまま鎮座している。
「鴇??」
 紺がもう一度声をかけると、鴇時の部屋の奥の気配が動いた気がした。いや、気がした、ではない。篠ノ女紺の勘は確実に焦燥した気配を捉えていた。伊達に恋人はやってない。

(何かやらかしたのか?)
 鴇時がそこにいることを確信して紺は部屋へ近づいた。



 一方鴇時は―…。
(ヤバいヤバいヤバい!!もう帰ってきたの篠ノ女!早いって!まだ片足しか!あわわわ)
と、完璧パニックに陥っていた。なんとかもう片方も足を通し『布切れ』を腰まで上げる。
 ここまでくれば、後はズボンを履くだ―…ガチャッ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ