版権

□僕たち中学生
1ページ/1ページ

今日は秋休み前の大掃除の日
掃除場所を分担して、みんなで学校の半年ちょいの汚れを落としていく
まぁ、分担といっても疎開先から帰ってきてない人がまだまだ沢山いて、先生も少ないままだからちゃんとした掃除なんてしてない
サボれるところはとことんサボるよ、だってフツーの中学生だもん


秋、夏の終わり
地軸が戻って、赤い海から人が戻ってきて初めての季節がやってくる
夕方肌寒くなるのも、蝉の声が聞こえなくなって行くのも、何もかもが初めてで
あの暑く、長かった夏に慣れてしまっていた僕たちにはすごい寒い(と思う)冬がくる、って思うと少し不安
凍え死なないかな、とか


そんなことを考えながら教室の床を雑巾掛けしていると、隅の方で渚が綾波に話し掛けていた
またちょっかい出してるのか…と呆れて、それでも拭くのを止めないで横目で見守っていると
あの馬鹿が何を言ったのか、綾波が箒を振りかぶった

「ちょっ、何してんだよ綾波!危ないだろ!」
「どいて、碇くん。…零号機、ロンギヌスの槍投擲体勢。カウント開始…10、9…」
それはただの箒です綾波さん!
「あは、僕はロンギヌスの槍じゃ倒せないよ?」
お前も挑発するな!
「碇くん。使徒殲滅が最優先よ…」
「シンジくんは僕のこと助けてくれないの?」
間に入って止めたはいいけど、今度は僕が標的に…
あぁ、もう!
「しょ、初号機、A.T.フィールド全開!」
僕は手に持っていた雑巾を両手で広げて防御の形。
久し振りに言ったからか、ちょっと声が上擦った。恥ずかしい
「あくまでも使徒に付くというのね…碇くん…。でも私は容赦しないから」

咄嗟に渚側に付いてしまった。
仕方ないじゃないか。しかも渚はもう使徒じゃないんだし。半分だけど。
ていうか渚、掃除中なのに道具何も持ってないし…
それにアスカが来たらきっと綾波に付くんだ、おあいこだよ。おあいこ。

「さっすがシンジくん!やっぱり僕は君が大好きだよ!」
うるさい、馬鹿。近付いてくんな。だいたい、君がこの状況の原因じゃないか
「…碇くんは使徒に渡さないわ。私が守るもの」
守ってくれるのは心強いんだけど、恥ずかしいからそろそろ終わってくれませんか綾波さん!
「何してんのアンタたち…」
「あ、アスカ…助けて…」
救世主アスカ様登場
僕は綾波に付くんだろ、とか思ったのを棚に上げて救助要請
日はもう短くなり始めてる
終わりの時間になったから、帰りを催促しに来たんだきっと!

「面白そうなことしてるわね。弐号機、発進します!」

やっぱり僕のささやかな願いは取り下げざるを得なかった
でも、まぁ、なんか、一番望んでいた日常ってのが手に入って
あの死と隣り合わせだった日々をこうやって馬鹿みたいに再現して遊べてる、っていうのは
すごく、幸せだな
と思えるから、今日のところは付き合ってやるけどね

蝉はもう鳴かない
世界を脅かすものも、壊すものも何もない
それでもあの日をなぞるのは
多分
あの時の僕たちを今の僕たちから見たら凄くかっこよかったからなんだ


掃除は最後まで終わらなかった
なんてったって、僕たちフツーの中学生だもん
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ