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□四月馬鹿っぷるの杞憂
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「カヲル、あたしあんたのこと大っ好きよ」
「私、碇くんのこと、とても…嫌い…」
朝、二人で渚の家から登校して、あー授業いやだなーとか思いながらベタついてくる渚の前歯を狙いつつ自分の席で準備をしていると、綾波とアスカが楽しそうに(主にアスカが変な笑いを湛えながら)話しかけてきた。
「はぁ?ナニソレ、僕だって大好きなんだけど」
「…っ。あ…、僕、も綾波のことはきら、い…かな…」
僕たちもお決まりの文句を返す。
今日はエイプリルフールだ。
嘘をついてもいい日。まぁ色々とルールがあるそうだけど、あんまりそこは気にしない。
でも、ちょっと…渚が僕以外に好きって言うのが気に食わないっていうか、変なカンジ。
ただのお遊びなんだから、って自分に言い聞かせるけど、胸に生まれたもやもやは小さいながらも僕の中に居座り、苛む。
「なぁにそのふっつーな答えは!もっと面白い嘘吐きなさいよ!」
「そんなこと言ったってそれしかないんだから仕方ないじゃん!」
はいはい大変仲のよろしいことで。
…妬けるなぁ、もう。
「あ、あの碇くん…さっきのは…嘘だから、その」
「ん?あぁ、大丈夫だよ、どうせまたアスカに無理矢理やらされたんでしょ?…まぁ、まさか綾波にそう言われるとは思わなかったけど…」
「え?」
「ううん、なんでもないよ」
最後のところはケンカし始めたお似合いの二人の声で聞こえなかったみたいだ。
よかったよかった。
そうしてる内に始業のチャイム。
色々散らばってたクラスメイトが席に着いていく。
もちろん、綾波も、言い合いしてた渚とアスカも。
なんか今日は落ち着かないなぁ、と溜め息を吐きながら委員長の号令で気の抜けた礼をしてノートを開く。
そしてそのノートを眺めながら夕飯は何にしよう、と考えに耽る僕は気付く訳がなかった。
渚が、半分怒ったように僕の横顔を見ていたことを。