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□私、死んでもいいわ
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「好きです」
今更分かりきった事を言うのはどうかとも思ったが、それでも喉まで這い上がってきた私の気持ちは私の口からぽろりと溢れた。一八さんの反応はまぁ、いつも通りと言った感じで、一瞥を私にくれた以上の反応はない。それでもいい。彼の言葉は私が生きていく上でとても大切なものだが、彼からすれば私の言葉は大した意味を持っていない。分かりきった事だ。だから私もそもそも彼から何か返事が返ってくるとは思ってはいない。彼の頭の中は自分の事と彼の血縁者たちの事ばかりだ。ちょっとしたジェラシーを感じずにはいられない。
「お前はそればかりだな」
そんな事を言われても困る。日本語が悪いのだ。好意を伝える単語が少なすぎる。好きです。愛してます。月が綺麗ですね。死んでもいいわ。あれ、最後二つは英語の和訳だっけ。別の言語を足すならまだもう少しあるかな。あいらびゅー。うぉーあいにー。さらんへよ。てぃあーも。じゅてーむ。あと、いっひりーべでぃっひ。とか。いやまさかこれだけとは全く思っていないが、私の世間知らずな頭ではこれが限界だ。
「これくらいしか私から一八さんに伝えられる言葉がないんです」
一八さんは欲張りだ。それでいて独占欲が強い。世界の全ては彼のものなのだ。けれど、私も独占欲は彼と同等かそれ以上に強い事を自負している。
当たり前だ。彼は私の全てなのだから。誰にも渡す訳にはいかない。
「だから言葉を重ね重ねて、私の想いを伝えようと思いました」
一八さんの事を誰よりもどんなものよりも私自身よりも愛してます。きっと世界の何もかもが消え去ってしまったとしても、私には私の全てであり神の如き存在である彼さえいてくれれば幸せなのだ。人はパンで生きているのではない。神の言葉によって生きているのだ。彼が私の名前を呼ぶ。ただそれだけの事で私は何だってできるような感覚に陥る。
私を喰らい尽くすような一八さんのキスに溺れながら、私は今死んでもいいと思った。