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□スズメ
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 目を開けると、小さな鳥がいた。何が不思議なのか、私の顔を覗いては首を傾げて跳ねる。なんだっけ。あぁ、そうだ。たしかスズメだ。可愛いなぁ。

「どこから入ってきたんですか?」

 シーツに蹲ったまま声を掛ける。小さな茶色の鳥は流石都会っ子。人に慣れているらしく、私から逃げたりしない。しかし返事はない。よくよく考えればスズメは喋られないのだ。

 仕方なく体を起こし、辺りを見渡す。急に動いた私に驚いたのか、スズメは小さく一鳴きすると、ベッドの近くのテーブルの上まで飛んでいった。よく見ると、昨日の夜に開けた窓が少し開いている。スズメなら充分通り抜けられる隙間だ。

「あそこから入ってきたんですね」
「何がだ?」
「一八さん」

 小さな隙間を閉じてベッドの方を振り返ると、横から声が掛かった。シャワーを浴びていたのか、一八さんの髪が少し濡れている。

「スズメですよ。開いていた窓から入ってきたみたいです」
「スズメだと?」

 訝しげに眉根を寄せた一八さんにベッドの横のテーブルを指さして示す。そこにはやはり小さなスズメがいて、こちらの様子を伺っているように見えた。

「焼き鳥にしましょう」
「…食べるのか」
「えっ、違いますよ」
「まさか、あれの名前か?」
「はい。茶色の鳥なので」
「焼き鳥は名前ではないだろう」
「では一八さん、はどうでしょう?」
「…却下だ」
「そうですか、それでしたら仁さん、はいかがですか?」
「ちょっと待て、何故奴の名前なんだ」
「お話の相手をしてもらいたいんです。アンナさんはもっと可愛いですし、一八さんは駄目なので。あと、純粋に私が知っている名前が少ないというのもありますが」
「…勝手にしろ」

 そう言うと一八さんは椅子にどっかりと座り、今朝の新聞を広げた。何となく、アンナさんが貸してくれたドラマの反抗期の娘を持つ父親のように見えた。その事を伝えると、一瞬睨まれた。何と言うか、新鮮な反応で面白い。ただ、彼の機嫌を損ねると恐ろしいので深くは触れないが。

「取り敢えず、一八さんは何を食べますか?」

 一八さん(スズメ)に振り返る。誰かが溜め息を吐いたような気がした。


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