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□Happy Halloween With Kazuya
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「あの、一八さん」
不意に声を掛けられ、手元の新聞から顔を上げた。
「とりっくおあとりーと、です」
ぴんと立った黒い猫のような耳と、黒いスカートの裾からくるりと飛び出した猫を思わせる尻尾のような飾り。それらの所謂コスプレと呼ばれるオプションを付けた少女は、真っ直ぐに真面目な面持ちで一八を見上げていた。
「…なんだ、それは」
聞かずとも想像できる女の名前を予想しながら、苦虫を噛み潰したような苦々しい表情で尋ねる。彼女は至って真面目に返した。
「アンナさんから頂きました」
予想通りの回答に頭が痛くなるような感じがする。今更読む気の失せた新聞をテーブルに抛り、飲み掛けで置いておいたコーヒーのカップに手を伸ばす。
ふとその隣に常に置かれているクッキーの皿が目に入った。カップに触れるか触れないところで手の向きを変え、緑の包装紙でくるまれたそれを手に取る。
「これでいいのか」
適当に抛ったクッキーは放物線状に飛び、ぽとりと彼女の小さな掌に落ちた。
「あ、ありがとうございます」
ふわりと微笑み、クッキーを握りしめる。
「ハロウィンって楽しいですね」
「そうか」