前略 未来のキミ

□NHKの控え室…!
2ページ/3ページ

相葉ちゃんが持ってきてくれた塩水でうがいをして、肩を抱かれながら小さな個室に案内された。
そこは和室で、相葉ちゃんは卓を寄せておいらが横になれるスペースを作ってくれた。
「…ごめんね?打ち上げに戻っていいよ」
「ううん。皆にはリーダーの介護してるって言ってあるから、大丈夫だよ?」
「…でも、」
「いいから!寝てなさい!」
「ありがとう、相葉ちゃん」
座布団を重ねて枕にしてくれて、おしぼりをひたいにのせてくれた。


「何があったの?リーダー?」
「………」
ズバリ聞いてくるなぁ。でも、なんて言ったらいいのか、分からない。分からないから、言葉が思いつかないんだ。
「今日変だったね?」
「…うん。うまく、はなせない…」
「いいよ。いつも上手くないじゃん?」
「んぅ?…そっか」
そろそろと起き上がってみると、相葉ちゃんはあわてておいらを支えにきてくれた。
「起きて平気?目が回ったりしていない?」
「平気」
起き上がると卓を近くに寄せて、おいら達は隣り合って座った。
「苦しかったら、寄りかかっていいからね」
やさしい優しい相葉ちゃん。でもおいらは卓に突っ伏した。しばらく無言のおいらに、背中をさすってくれる。ちらっと横目で相葉ちゃんを見る。
「もう平気だって…逆にお腹が空いてるくらいだよ、食べたくはないけど」
「じゃあ、りんごジュースとかもらおうか?」
「…うん」
それなら、口に入るかも。
相葉ちゃんはスリッパつっかけて店表に行った。
おいらはどこから話せばいいのか考えた。


「遅くなってごめんね〜」
相葉ちゃんはコップを二つ持って戻ってきた。
さっきと同じ、おいらの横に座る。
「あはっ、局につけてきちゃった!」
「ちゃっかりしてんなぁ」
「あれ?リーダーには言われたくないな?」
「んふふ」
笑って、さされたストローから飲みかけると、舌にビリッとする苦味を感じた。ふと横をみると、ジッとおいらを見つめる相葉ちゃんと目があう。
おいらは飲み込まずにこっそり戻し、さも飲んだように喉を鳴らした。
「美味しい?」
「ごめん、気持ち悪…やっぱ飲めない」
「そっかぁ〜」
卓に突っ伏したおいらの頭をなでる相葉ちゃんに目をむけると、微笑まれた。
「ん?」
「頭なでるって、子供じゃないんだよ、おれ」
「じゃあ、背中にしようかな」
だけど、そう言いながら肩をつかんで、寄りかからせてくれた。
「変だよ、これ」
「まあまあ…それで?まとまった?」
「うん…今日ね。おれ、三回目なんだ」
「なにが?」
「だから、今日」
「……?」
「NHKの旅の後に二回目があって、しやがれのロケの後に今なんだ」
「ええっと、タイムワープとかテレポーテーションとかって事?」
「えっ?そうなの?あぁ、そうかも…でも、おいら何にもしてないんだよ?」
「でも何か原因があるはずだよね?」
「原因…?」
今まで考えてて分からなかったんだから、思いつくはずがない。おいら頭をふる。
「その、NHKの旅の時何かを見たり、何かに触ったりしていない?」
「えっと……あ、香水瓶があった!」
そうだ。みんなが帰ったあと、部屋のなかで香水瓶があった。それを開けて、その後だ。
「その青い瓶の中を確かめたの?」
「うん、開けて匂いを嗅いだら、オレンジの……何で瓶が青いの、知ってるの?」


相葉ちゃんは悲しそうな瞳でおいらを見る。その目はここのところずっとおいらを見る時の…。
似た瞳を知ってる。ファンの子が、おいらと話しながら他のメンバーを思っている目だ。
ふいに、相葉ちゃんがおいらを抱きしめた。なに?強く抱きながら、いろんなトコを触ってくる。
「やっ!なにしてんだよっ!きもっ、やめ!」
逃れようと腕を突っ張ったり、身体を捩ってみたりするけど、全然抜けられない。
「ダレッ?相葉ちゃんじゃない!」
相葉ちゃんのニセモノはおいらの言葉に手を止めて、顔を覗き込む。
「何で?俺が、相葉でしょ?」
「ちがうっ!相葉ちゃんはそんな風においらに触んない!それに、キミはおいらを見ていない…ずっとダレかちがう人を見てるもん!」
相葉ちゃんのニセモノは今度は力が抜けたように、おいらを放した。はじめてあったようにおいらを見る。
「本物の相葉ちゃんは?どこにいるの?」
「別に、俺でも問題ないんじゃない?…誰も気付いてないしさ」
「だめだよ!相葉ちゃんを返して!」
おいらはニセモノのシャツをつかみ詰め寄った。
「じゃあ、俺を捕まえてごらんよ?捕まえる事ができたら、雅紀を返してもいいよ?」
「もう捕まえてる!」
「そうじゃない。事の始まりに戻ってごらん?」
「…始まり?」
「青い瓶のある、あの部屋だよ?」
「おいら、過去には戻っても、先にはいったこと…」
オレンジの香りがして、ニセモノの姿が薄く消えて行く。おいらも意識がフワリとして、眠りたくなってきた。でも、ここで眠ったりしたら、相葉ちゃんを取り返せない!
「待って!どこに…」
「…NHKの控え室だよ!青い瓶がある!」
「…NHKの控え室!そこに行けばいいの?」

「…NHKの…控え室…だよ…」
今度こそおいらの意思で、時を飛ぶことにした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ