BLUE Company
□第一章 夕暮れの丘に たなびく
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＂青天の霹靂＂とは、こういう事を言うのだろうか？
長年、天涯孤独で、誰にも、何も望まれ事なく、生きてきたこの俺が、イキナリ上場一位の会社の社長になるなんて！
そうか！きっとこれは、ドッキリに違いない。
そんな上手い話しがあるものか。
いかんいかん、この、目の前の青年が、いくら誠実そうに見えても、この俺が、社長なんて出来る訳無い。
ドッキリでなきゃ、何かの間違いだ。うん、きっとそうだ。
「誠実そうだなんて、お褒めいただき、ありがとうございます。智様」
ダークブルーの高級そうなスーツを着こなす青年、櫻井翔と名乗っていたな、は胸に手を当て俺に向かって奥ゆかしく微笑んだ。
俺の人生にはいなかったタイプだから、ドキドキというかオロオロというか、とにかく落ち着かない！
「えっ、なんで…エスパー？」
なので、こんな事言ってしまったり。
「智様。先程から、お考えは全てお話し下さっていらっしゃいます」
「えっ、本当？恥ずかしい」
思わず両手で顔を覆ってしまう。
恥ずかし過ぎて顔をあげられない。
それに、上目遣いに櫻井さんを見ると、俺の事優しい目で見ていて、何でそんな目で見るんだ！
俺、本当、どうしたらいい？
「も～、無理だよ。そんな話しの持ってき方じゃ」
あ、そうそう、も一人居たんだ。
二宮和也って、これまた高級そうなグレーのスーツを着込んだ二枚目が。
「いいかい、智様？貴方が我がCompanyの社長大野和智の子供っていうのは間違いない。だから、財産を相続するのは当然なんだよ？それを受け取らないって手はないでしよ」
ずいぶんフレンドリーに話し掛けてくる人だ。あ、俺に合わせてくれてるのかな？
「いや、これはもとから」
「お、俺また喋ってた？」
「智様、すぐ顔に出るから」
二宮さんは意地の悪い笑みを浮かべ俺を見る。
だから、俺もお返し。
「だけど、あんた達は弁護士じゃ無いし、親戚でもない」
すると二人は嬉しそうに顔を見合わせた。
「そうです。我々はCompanyの代表として、智様にお願いにあがったのです。智様、貴方の親戚方から会社の全権を奪いとっていただきたい」
「はあ？」
「頼むよ智様。このまま行くと、あのボンクラにCompanyを潰されちまう」
「ボンクラ？」
「あんたの叔父さんになるんじゃない？」
何も話す事が浮かばない。だから、俺は黙っていた。
「和智様、貴方のお父様は半年前にガンの告知を受けました。その後貴方を探すよう我々にお申し付けられたのですが、病状が急変され、昨夜…」
「だから、智様。俺達と一緒に大野家に乗り込んでくれ」
「悪いけど、あった事もない人達の為に、そんな大変そうな事出来ない。まして、あった事もない人から何か貰うなんて、あり得ない」
「智様、和智様は貴方に会おうとされていらっしゃいました。そして、あとを頼もうとされ」
「第一、俺は社長なんて器じゃねぇよ」
「そんな事ねえよ」
二宮さんが怒った様な顔して俺を見ている。
「あんた、俺の事憶えて無いの？」
皆目わかりませんが？俺、二宮さんにあった事あるのか？
「俺が大丈夫だって言ってんだから、大丈夫なんだよ！」
はあ？意味わかんねぇし。
「緒雑務に関しましては、我々にお任せいただければ大丈夫ですので、智様には何の不安もない事お約束いたします」
「要するに、智様は椅子に座っていればイイんだよ。あとは俺達がやるからさ」
「そのあんた達が悪い事しないって保証は無いんじゃねぇ？」
「そこは、私、いえ、我々を信頼いただくしかありませんね」
「も～、時間が無いんだよ！例え俺達が悪事を働いたって、智様はいらないと思ってんだったらどうだっていいじゃないか！イエスって言え！」
何なんだ、この二宮という奴は？
俺の肩を掴むと前後に振り出した。
頭ガックンガックン、首が死ぬ。
だけど、顔を見たら泣きそうな顔をしている。
あれ？どこかで…
「…いぇ…す…」
「OKだ！急げ！翔ちゃん！」
「ありがとうございます、智様。我々、身命を賭してお仕えいたします」
そう言うと、二人に両脇を挟まれ連れ出された。
え？なに？
「これから和智様の処に行きます」
「えっ！これから？」
「はい。乗り込むのは早ければ早いほど良いのです」
「大丈夫、俺がずっとついているよ」
二宮さんの笑顔が隣にあった。
外に出ると、アパートの前には車体側面に＂BLUE＂と書かれた白いワンボックスが止まっている。
運転席にはイケメンが険を含んだ目で座っていた。
俺達をみると、一言。
「遅いっ！」
と怒鳴った。
「渋るんだったら攫って来いって言ったろ？お前達が説得は任せろ言うから、5分もオーバーしてる。早く乗れ！」
あれ？この車、ヴェルファイア？
外見ダサくて気づかなかったけど、うわっ、車内どうなってんの、これ？
アパート前にはもう一人、長身で笑顔全開の青年がいた。
「じゃあ、相葉くん。後はよろしく」
「連絡ちょうだいよ～」
「行っくぜ～っ」
扉が閉まると同時に身体にGがかかり座席に押し付けられた。
運転手の名前は、松本潤というそうだ。
アパートに残ったのは相葉雅紀？
何か、みんな大人っぽく見えるが、聞いたら年下だった。
それにしても乱暴な運転だ、ハンドル持つと性格変わる人なんだろうか？
車内を見回す俺を、二宮は改めて座席に座らせると服を脱がそうとする。
「な、何？」
「はい、着替えて。ばんざーい、ほれ」
つい、バンザイしてしまう。Tシャツが剥ぎ取られた。
櫻井さんから下着とワイシャツが渡された。
どちらも一度洗濯されて、アイロンかけてある。
「おまっ、にのっ、何してんだっ」
ズボンのボタンを外しファスナーに手をかけようとするのを両手で制する。
「着替えだよ」
「自分で出来るわっ」
あぁ、疲れる。
俺普段、こんなに感情の起伏ないんだよ。
何かこれから父親、死んでるらしいが、に会いに行っても、疲れててそれどころじゃなさそう。
そうか、父親か、全然実感ないんだが、死んだんだ。
今までの自分が全てだと思っていたけど、父親側の半分が欠けていた。
それが分かったら、何か変わるんだろうか？
「大丈夫ですよ、貴方はもう一人ではないのです。我々がついています、ずっと、貴方をお護りいたします」
知らず、涙が零れていた。
「お着替えを」
俺は頷くだけで精一杯だった。
夕暮れの丘を、温かい誰かに手を繋がれ登っていくと、大きなオレンジ色が視界いっぱいに広がった。
俺は嬉しくて嬉しくて、その辺を駆け回って。
優しい声が俺を呼ぶ。
そうしたら、もっと嬉しくなって、その人の足元、淡いブルーのスカートに抱きついた。
その人が俺を抱きかかえると、暖かい胸が心地良くて、俺は何時も眠くなってしまうんだ。
ゆうらり、ゆうらり、揺れるスカートの波、安心のオレンジ色の中に沈んでゆく。
あぁ、このまま、永遠に続けばいい。
あまりの事に頭がついて行けなくて、車内でウトウトしていたらしい。
子供の頃の夢。
母は綺麗な人だった。豪快な性格で、何時も笑顔だった。
父親は居なかったけれど、俺は幼くて、そんな事考えもしなかったんだと思う。
母親が死んだ。買い物帰りの途中、車が突っ込んで来た。
養護施設に入って、後になってから自分の事を理解して行った。
施設の中ではまだ自由があった気がする。俺はガキ大将だった。
皆を率いていろんな事をしていた。
里親が名乗り出てくれて、世話になり転校すると、状況は一変した。
理解されない事が多かった。そのうち考えて話すことにした。
それでも、少しだけ前に出ると、＂出る杭は打たれる＂辛かった。
今思うと、嫌なガキだっかもしれない。でも、あの頃は自分で自分を護る術が他に無かった。
別に、ツッパリに走ったりはしなかったけど、斜に構えてはいた。
高校を卒業する日、里親が事故で亡くなった。卒業式にくる途中だった。葬式の間、里親の親戚連中の冷たい視線が追いかけてきた。
だから、誰にも望まれず、自分も何も望まないように生きてきたんだ。
でも、彼等は俺を必要としているんだろうか？
大野家は、言葉では言い表せない。おれ、ボキャブラリー無いんだ。
一言で言うと、デカかった。
そして、正直、俺は親戚連中の冷たい視線とか、＂どこの馬の骨＂的な修羅場を想像していたんだけど、修羅場ってかテンパッてんのは一人だけだった。
多分あれが二宮が言ってた＂ボンクラ＂だ。
しかも、かな～り遠い親戚だったようだ。
大野和智と言う人も縁の薄い人らしく、親戚というには？なひとばかりだった。
その代わり、会社に関わりのある人達は、何か、実力者然とした人達が多く、要するに、＂話しは出来てた＂ようだった。
俺は一言も話す事なく、何も話さなくていいと言われていた、父親の枕元に行き、顔を見ていただけ。
そっくりだった。今まで気付かなかったのが不思議なくらい、似てる。
そう思ったら、涙が一粒だけ落ちた。
櫻井に別室に案内されて行くと、実力者と思っていた人達は、本当にそうだった！
政治家や俺でも聞いた事のある会社の会長、社長だった。
父親の昔話などを聞き、後継が見つかった、つまり俺、事を喜んでくれているようだ。
櫻井が
「これからもよろしくお願いします」
と、締めくくると、引き上げて行った。
「智様、大変ご立派に務めていらっしゃいました。櫻井、感服いたしました」
「いや、何がなんだか…それより、ニノ、何でビデオ撮ってんだ？」
「広報ですよ。社長交代のニュースに使うんです」
「泣いてるトコ撮ってたな？消せ」
「駄目ですよ。ニュースには使いませんが、俺のコレクションですから」
ガックリと肩を落す、俺。
冗談だよな？疲れる。
「智様、今後の、葬儀等のスケジュールですが…」
櫻井の言葉にこれから忙殺されそうな雰囲気を感じる。
あぁ、「やっぱりやめる」つて言えないかな？
ここまて来ちゃったら無理だよなぁ。
「貴方がいて下さってよかった」
「そうそう、俺達には智様が必要なんだ」
タイミングよく櫻井と二宮が言う。だから、つい確認してしまう。
「お、俺また喋ってた？」
和やかな笑顔の二人に、俺のこれからの人生に不安を感じずにはいられなかった。
第一章 大野篇 おわり