BLUE Company

□第二章 想いは胸の中にある
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あれから、八ヶ月がすぎた。
あれ、というのは俺二宮和也と櫻井翔、相葉雅紀、松本潤が画策した
『智様を担ぐ為には嘘が必要だろう作戦』
このWBLUE companyWの社長であった大野和智が亡くなり、全財産を行方不明だった『智様』にすんなり受け継いでいただく為には、嘘が必要だった。
ちょっとした偶然から、俺は『智様』の手がかりを持っていたし、行方を探し当てるのは、造作も無い事だった。
問題があったのは、『智様』の性格だ。
あのまま弁護士が話しをしに行ったら、どんな多額の財産であっても、『いらない』の一言の予想がたった。
これは、俺だけじゃなく他三人、俺たちは気付かれないよう接触していた、の共通の意見だ。
そこで一芝居打ち、『智様』が逃げられないよう周囲を固めた。
実際は上手く行くか不安だったけど、最後は力尽くな感もあるが、成功と言って差支えないだろう。
ただ気は抜けない、『智様』は何時でも消えてしまいそうな危うさがある。
あぁ、いっその事、首輪でも付けて繋いでおきたい!

ウチの社長様、大野智は、8:15出勤だ。
社員の事を考えると、甚だ迷惑なのだが
「社長だからって、何が違うの?仕事時間の10分前には着いて居ないと落ち着かない」
と実に真っ当な事を言う。
しかも、この社長は自分が使うこの部屋は自分で掃除、簡単に机の上を拭くくらいだが、までする。
実に、ウザい。
今日も、社長席に座る前に、拭き掃除で腕まくりしたシャツを、戻している。
「お早うございます。智様」
櫻井は偉いよ、いっつも笑顔だ。
「お早う。櫻井くん、二宮くん、松本くん、そして相葉くん。今日もよろしくお願いします」
言葉と共に頭を下げてくる。またこの社長は、腰がエラく低い。
櫻井は智様が椅子に腰かけるのを待って、スケジュール帳を開いた。
智様は、頭が下にあるせいか、不安気な表情のせいか、実に幼く見える。
「本日は、お出かけしていただく案件はございません」
この言葉を聞くと、ウチの社長は途端に嬉しそうになる。
「じゃあ今日は書類を見て行くだけだね?よかった、俺、人と会うの苦手だからさ、皆さん社長さんとかだし」
気後れしちゃって、と続く言葉を遮り、櫻井は
「ですが、急に、という事もありますので、その際は申し訳ありませんが、智様、お願いいたします」
「…はい」
こっくりと頷く、実際、社長が交代になってから、訪れる者はかなりな数だった。
こちらから伺わねばならない処は、もちろん智様にも行っていただいた。
すれ違いで何度も社に訪れた者もいたようだ。
メディア関係は俺がインターネットで済ませてしまったので、ホンの数社のインタビューですんだ。
しかし、このインターネットが始末の悪い結果を残した。
「し・ゃ・ち・ょ・う・?」
俺は極上の笑顔をつくって智様に呼びかける。
すると、案の定俺の視線を外しやがった。
「し・ゃ・ち・ょ・う・?」
もう一度呼びかけると、シブシブこちらを向いた。
「はい、何でしょう、二宮くん」
「そのスーツ、昨日も、着ていらっしゃいましたね?」
「そ、そうですか?いや、僕よく分からなくて…」
「唐沢さんが同じものを着せるはずないだろう? 何処の女んとこに泊まったっ!!?」
社長室を作る時に防音にしておいてあって良かった。こんな事で防音が役に立つとは思って居なかっただろうが、とにかく、先見の明ってヤツか?
「あんたは、何度同じ事繰り返せば気が済むんだっ!?」
「BARで気があって、一緒に飲んだだけだよ…向こうは僕の事は知らないって言ってた…し…」
「あんたの事を知らない女がいるはずないだろ?!」
「僕の顔、見た事無いって…」
「じゃあ、智様を知らないとしよう。あんた、昨日今日身につけてる服装が、トータル幾らか知ってるか?」
「え? この、スーツ?」
「靴も入れて」
「……さあ?」
小首傾げて俺を見上げても無駄だぞ、追及の手は緩めない。
「靴194,250円、オーダースーツ256,200円、ワイシャツ30,450円
、ネクタイ8,190円、トータル489,090円だ! ! 顔の造作はともかく、そんな金の匂いさせた奴を女がほっとく訳ないだろ?!」
智様の喉仏がうごくのが見えた。
「ポケットチーフが無いようだけど、あれはどうしたのかな?」
途端に視線を泳がす。何か隠してる。
「え?あ〜〜、どこやったかな?」
「ちなみにあれは14,700円するんだけど、まさか、誰かにあげた、とかじゃないよね?」
「……」
はー、とため息つき俺は智様に背を向けた。
「まさか子供まで作っちゃったんじゃないよね?」
「ちゃんとゴム着けたから大丈夫」
やっぱり、酒飲んだだけじゃねぇじゃん。
「あんた、据膳食わねぇ時無いんかっ?」

「みんな、そろそろ仕事を始めて貰えないかな?」
櫻井が言うから、反対は出来ない。
まぁいいか、この位言っとけば、しばらくは大人しくしとくだろう。
秘書室に戻りながら松本が話し掛けて来る。
「俺そろそろ営業に戻りたいんだよなぁ」
「まあ、確かに落ち着いて来てはいるな、櫻井に聞いてみれば?」
松本は眉間にシワまで寄せて真剣な顔をする。そんなに営業部が心配なんだろうか?
「部署異動しちまうと、お前と智様のやり取り見れなくなっちまうだろ?あんな面白いの、見逃しちまうのもったいないよな?」
松本は相葉を振り返ると、笑いかけた。
「えー、社長涙目だったよ?可哀想だよ、あんなに苛めて〜」
台詞は同情的だが、顔が笑顔全開だ。ま、こいつは何時も笑顔で変わらないけど。
「じゃ、松本。も少し待てよ」
「なんで?」
「あと一つ二つ鎖着けるつもりだから、それ見てからにすれば」
ニヤリ笑って俺は言った。
「…お前、好きな子にちょっかいを出し過ぎて、嫌われるタイプだな」
「ほっとけ!!」

しょうがないだろう?もう二度と離れるのは嫌なんだよ。
ながらくあの人は誰にも必要とされてなかった。それが平気なのは、あの人こそが誰もを必要としていないからだ。
いつか俺達を置いて行ってしまうんじゃないかと、不安なんだよ。

ふと窓から外を見ると、桜が満開だった。
俺の不安も花弁と共に風に飛んで行けばいい。
けど、それは、アスファルトに降り積もってしまうだろう。


第二章 二宮篇 おわり


【attention】
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