BLUE Company

□第三章 夜空はプラネタリウム
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七月のある金曜日、俺、相葉雅紀、二宮和也、櫻井翔、松本潤、とシャチョーである大野智様の五人で飲みに来ていた。
今度海外に出張する松本の為のプチ壮行会だ。
元から堅苦しくない秘書課だけど、男ばっかりの宴会と言えば、猥談となり、自然、シャチョーの方に視線が向かって行く。
「何だよ?いいよ、俺の事は」
もうほっといてくれ、と小声で言うと、グラスを傾けた。
だけど、シャチョーの横には二宮が座っていて、許しそうにない雰囲気だ。
「ところで、何であんたゴム持ってんの?」
ぶっっっ、ぐぉっ、ごほっ、ごほっ……
シャチョー、俺、松本の三人が飲みかけの酒を、吹く、喉に詰まらす、むせる、で涙目になりながら息を整える。
櫻井一人が、平然と飲み続けて
「それは、私も不思議でした。智様、ご自分で買われたのですか?」
とシャチョーに聞いた。
「今まで女性とご一緒だった処は、そういった場所ではありませんでしたね。最初からそのつもりで持参されていたのですか?」
あいつ、酔ってんのかな?
なんか、二宮よりたちが悪い気がする。櫻井って、真面目な分、辛辣なトコがある。
さっきまでむせて苦しそうにしていた松本が、今は苦しそうに、笑っている。
シャチョー、ファイト!
俺は思わず、両手の拳を握って、シャチョーに頷いてみせた。伝わってるかな、俺の気持ち。
「…唐沢だよ」
「え? 大野家の執事頭、の唐沢さん?」
「W紳士の嗜みでございます。相手の方を幸せにする事が出来るようになるまでは、こちらをお使いになって下さいWって、ポケットチーフに潜ませてくれるんだ」
「へー。じゃ、左胸に入ってんだ?」
「全然わっかんねぇな」
「今日は入ってない。あったとしても、極極薄だから分からないと思うよ。唐沢が仕込むんだぞ?」
多分みんな唐沢さんを思い浮かべている。伊東四郎似のあの人がねぇ。
『にんっ』
いや、考えつかないねぇ。
「それにあの人、意外にキツイんだ。W今は女性も発展的ですので、用心の為でもありますWって、そういう意味だろ?」
ちょっとコメントし辛いなあ、と思ったら、櫻井が頷きながら言った。
「大野家の執事としては、一時の快楽で、将来主人が使い物にならなくなったら大変ですから。唐沢さんらしい配慮ですね」
「ゴンッ」
シャチョー、テーブルに突っ伏し頭ぶつけた。スゴイ音がした。
まぁまぁ、とかいいながら、二宮がシャチョーの肩に手を置き、起き上がらせる。
そのまま自分に引き寄せてる。
「それで、あんたは、何時になったら懲りてくれるのかな?」
シャチョー硬直してる。
「何だ、またドジったのか?」
松本が、しょーがねーなー、といいながら、嬉しそうに言った。
「目撃情報があってね。もう、大変だったよ、一昨夜は!」
「なっっ、何で?知っ…」
シャチョーが一人、赤くなったり青くなったりしている。
「あんた有名人なんだからさ〜。常に見られている訳よ?ブログがあるの、知ってる?W日本の社長Wての」
「あ〜、あれだろ?株式会社幕◯の。ウチも載ってるよな?智様よくあの取材受けた、な訳ないか、二宮が?」
「苦労したよ〜、プロフィールとか。趣味のとこW女を釣る事Wなんて記入出来ないから、W釣りWとだけいれといた」
「〜あれそうだったのか!どっからW釣りWが出て来たのかと思ってたんだ。だって智様趣味無いもんな?」
シャチョーは神妙に答えた。
「今は、仕事が趣味です」
「笑えねぇ。 で?一昨日って何?」
松本が話を蒸し返した。
「この人ねぇ、また一昨夜ヒット(魚が釣れること)させたんだよ」
「それって、ヒットされちゃった、の間違いじゃね?」
あまりな言われ方に、シャチョーも抵抗したが、小声だ。
「プ、プライベートだろ…」
「! 俺はな、あんたの後始末のために、ネット見通しだったんだぞ?どんだけ嘘書き込んだと思う?完徹だったんだ!」
耳元で怒鳴られてシャチョーしょげ返っている。


「なんか、静かだね?」
俺は雰囲気を変えようと、仕切りの襖に耳を当ててみた。
ここは前から利用している料亭だから良く知っているけど、今日は本当に静かだ。
今日の幹事の二宮が、
「無理をいって俺達一組だけに貸切ったんだよ。社長がまた据膳食わないように」
なんて言うから、俺は本当に頭に来た。
「ニノは、何でシャチョーを苛めるのかな?」
俺の抗議の声も二宮には届かない。却って淋しい言葉が返ってきた。
「お前に分かってもらおうなんて思ってないし」
松本が慰めるように俺を見て言った。
「二宮はドのつくSだから、Mを見ると苛めたくなんだよ」
智様さみしそうに笑ってるじゃないか。
「本人前になんだけど、こんーなにいい人、他にいないよ?」
「ゴマ擦っとけば良い事あるかもな〜」
「そんな事じゃないでしょー?もー、信じらんないよっ」
こんな席には居られないと、俺はシャチョーを連れ出した。


「相葉くん、歩くの早いよ。手も痛いし、止まってくれないかな?」
俺はシャチョーの手を掴んだままだったらしい。
「あ…」
手首を見ると、赤くなってる?
「丁度ベンチがあるよ、座ろうか?」
俺は情けなくて、一つ頷いた。
どうして俺は、順序よく物事を運べないのだろう?
いつも思いつきで動いてしまう。
今日だって、松本の壮行会だったのに。
「あ〜、もう!悩んでたってしょうがない!」
「あはははっ。相葉くんはイイなあ、君を見ていると元気になるよ」
え?そう?
「常に前に前にギアが入っていて、気持ちがいいよ」
「だけど、煩くない?」
「全然」
「空回りしちゃうし?」
「何でもトライして見ないと、解らないことあるよね?研究者なんだから、トコトン追求すべきだろ」
「え?なんで?」
「相葉くん総合研究部門に就職してるのに、なんで秘書課にいるの?一度聞こうと思っていたんだけど」
「あれ?シャチョー、俺の事気にしてないかと思ってた。朝の挨拶も『そして相葉くん』てついでのように言われるから」
「あのメンバーだったら、最後に見るのは相葉くんにしたいよ〜、元気貰えるし。気持ち良く笑顔なの、君だけじゃない?」
だけど、そうだ。いつも一人一人を見て、声、かけてくれる。
シャチョーの笑顔が話を促してくる。
「ちょっと、前の部署でやり過ぎちゃって、二宮が引っ張ってくれたんだ。『パシリがほしいから』って、ちょうどシャチョーの事で忙しくなるころだったし」
「もう前の部署には戻りたくないの?途中の研究もあったんでしょ?」
「でも、松本も営業行っちゃうし…」
「自分の気持ちが大事だよ。考えておいてね」
はー、なんだかんだ言って、やっぱりシャチョーは社長なんだな〜。
顔をあげると、満天の星。むかし、見た事ある。
「俺、小さい時、ニノの手を離しちゃった事があるんだ。そしたら、あいつ…家に帰って来なくて、どのくらいだろ?ずっと会えなくて、ようやく会えたら、違う子になってた」
二宮の両親がウチにきた時、夜でこんな星空だった。
あの時からずっと、俺はニノを探している気がする。
「二宮くんの事が気がかりなの?」
「そんな事『自分の心配すれば?』って言われるよ?」
シャチョー何か考え込んでる。
しばらくして、俺を見て言った。
「さて、戻ろうか?それとも二人で飲みに行っちゃおうか?」
出て来た手前戻り辛いしね、と言って笑った。
「相葉くんは俺と同じ匂いがする。ペースが同じっぽいから、安心する」
「え?俺もそう、思ってた!」
あははと笑うと、二人立ち上がった。
「俺の行きつけのBAR、行ってみる?」
「基本的な事聞いていい?二宮にあ〜んなにボロクソ言われて、何でやめないの?」
「出会いを求めているんだけど?」
「でも、酒場にはさ。シャチョーみたいな人を釣ろうって女性しか居ないんじゃない?」
「………考えた事なかった」
呆然とする社長の肩を抱いて歩き始めた。
「今日は俺がおごるよ〜。駅前の一杯飲み屋でねっ」

第三章 相葉篇 おわり


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