BLUE Company

□最終章 BLUE
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株主総会も過ぎた7月下旬。
その日、秘書課の櫻井翔が無断欠勤をした。
「今日のところは大丈夫です。ですが明日から、社長、横浜支社の研修会に2日間の出席予定が入っております。そちらは櫻井と一緒の予定をたてておりました」
北村詩織。
産前産後休暇が終わる前期の終わりに、営業部から櫻井にヘッドハントされてきた。
今では秘書課の紅一点として頑張っている。
女嫌いの二宮が唯一毒舌を振るわない人物だ。
「いったいどうしたのかな、櫻井くん」
「携帯は電源が切れているようです」
「櫻井くんの実家の方は?」
「電話してみましたが、どなたもお出になりませんでした」
「そう、か…」
北村の携帯が鳴る。
「社長、二宮くんからです。お出になられますか?」
「うん、貸して。二宮くん?今、どこ?」
「櫻井のマンションに着きました。今管理人と話したんですが、今朝は普通に出掛けたそうです」
「そうか…途中、事故らしき跡とか無かった?」
「……無かったですね」
二宮の声は緊張の為か、普段より低い。
「…しばらく待ってみよう。二宮くんありがとう。戻ってくれ」
「はい、すぐ戻ります」
「いや、ゆっくり歩いて来てくれないか?時間計ってきて欲しいんだ」
「分かりました。じゃあ、櫻井の歩幅で社に戻ります」
「うん、お願いね」
大野は通話を切ると、携帯を北村に返した。
「どういたしましょう? 警察に届けますか?」
「成人男性がW朝、職場に来ませんでしたWで捜索願いは出せないだろうな。僕らは家族でもないし。…それに、櫻井くんの意思かもしれない」
「櫻井くんの意思、ですか?…そうですね、そういう事もあり得ますね」
大野は、腕を組むと考え込んだ。暫く沈黙が続き、大野はぼんやりした口調で話しだした。
「北村くん。明日からは、僕一人で行くよ」
「上島専務とご一緒というのは、いかがでしょう?」
「それは…やめてくれ」
「…でしたら、総務から誰か出せないか聞いて見ます」
「うーん…いや、一人のが気楽だな?」
大野の言葉に北村は異を唱える。
「櫻井くんの意思かどうか分からない以上、社長を護衛する者が必要でしょう」
「俺の為に櫻井くんがいなくなったって言うのかい?」
「可能性の話です。櫻井くんは社長のスケジュールを一番知る人物ですから」
「俺も賛成ですね。用心しすぎる事はないでしょう」
二宮が社長室に顔を出した。
「おかえり。早かったね、ここまで15分て事は」
「歩いて10分、走れば5分で社に着きますね」
大野は背もたれに体を預けると、ため息を吐いた。
「じゃあ、新幹線はやめて車で行こう。誰か運転手を手配して下さい」
「承知いたしました」


夕方の6時過ぎ、二宮の携帯が鳴った。
携帯の画面には、海外で仕事中の松本潤の名が映っている。
「やあ、久しぶり。そっちは朝か?」
「ああ、今日が始まった感じだな。社長はどうだい?北村さんももう、帰ったかな?」
「社長は出張中だ」
「ふーん。櫻井に繋がらなかったんだが、一緒に?」
「いや、違うが…何かあったのか?」
「…実は、こっちで妙な噂が出始めている」
「噂?」
「BLUEが当局に摘発される…らしい」
「摘発?なにで?…脱税か?」
「それが、盗用だって話しだ」
「盗用?どれを?」
BLUE社の商品は多い。
「そこまではわからない。何せこっちは7時間も時差がある海外だぜ?」
「……」
「二宮?」
「その噂、出来るだけ詳しく調べてくれ。そっちも大変そうだな」
「…も?…分かった。また連絡する」
二宮はガランとした秘書室を見回し、課長の席に目を止めると溜め息を一つついた。
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