幽蔵ssT

□それは恋へのカウントダウン
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「付き合わねぇ?」



仕事帰り、幽助の屋台に寄ると、寒さのせいか珍しく、客はオレの他にはいなかった。

食べ終わったラーメンの丼の代わりに、熱燗を出しながら、幽助が言ってきた。

「え?」
「今オメー付き合ってる奴いないって、言っただろ?」
言ったけど。
「好きな奴もいないって、言ったょな?」
確かに、言ったけど。

「だから、俺と付き合わねぇ?」
「……それは、ちょっとそこまで、とかじゃなく?」
「とかじゃなく。コイビトにならねぇ?って言ってんの。」

サッパリ意味が分からない。
頭は悪くないと自負してはいるが、幽助の言葉が理解できない。

酒を口に運ぶ手は、空中で止まったままだ。

動かないオレに焦れたのか、
「お〜い?」
とブンブン顔の前で手を振る幽助。

「…ごめん、あの、よく分からないんだけど。」
何でだょ!?と大袈裟にずっこける素振りをする彼。

「だからぁ、好きだってこと!!」
カウンターに身を乗り出してまで彼は答えてくれたが、やっぱりオレには理解できない。

「…それは、like、ではなく?」
「ではなく。ラブ。L・O・V・Eのラブ。」
love…?…え?

「え!ちょっと待って!…え?え?キミが、オレを好き?」
いやいやいや。有り得ないだろ。

動揺するオレが可笑しいのか、ハハハッと幽助が笑う。
「……もしかして、からかった?」
そうだ、そもそも照れる様な素振り一つ見せずに好きだとか、何でオレも気付かなかったんだ。からかった以外の何物でもないだろう。

けれどオレの予想に反して、幽助はピタッと笑うのを止めると、
「いや、大マジ。」
と、真っ直ぐにオレの目を見つめて言ってきた。

ダメだ、冷静になろう。
「…なんで、オレなんです?」
大体オレ、男なんですけど。
「なんでって言われても。ん〜なんかもう、気がついたら好きだったんだよな。」
「気のせいじゃないですか?」
気のせいであってくれ。
「いーや!気のせいじゃねぇんだょ、これがまた。」
「なんで気のせいじゃないって思うの?」
こうなったら片っ端から否定して気のせいだったと思わせよう。
昔から丸め込むのは得意だ。

「えー?だってよぅ…。」
チラッと幽助がオレを見た。
「オメーに、その、キスしてぇって思うからさ。」

……………。
開いた口が塞がらない、とはまさにこの事だろう。
幽助が何を言うかを何パターンも予想して、どう切り返すか、頭の中でフル回転させていたと言うのに、そのどの予想にも当てはまらない事をこの男は言ってのけた。

「…ちなみに聞くけど、オレの性別は?」
「男。」
ああ良かった。勘違いされていなくて。
…いやいや良くないから!

「男のオレに、キスしたいって思うの?」
「思う。男のお前にっつうか、蔵馬にキスしてぇ。」
言ってること変わってないんですけど。

「オレとセックスできるの?」
「出来る!!」
即答!?
「幽助、男とした経験あるの?」
「…ねぇけど。」
じゃあ何故即答出来たんだこの男は。
「オレに勃つの?」
「勃つ!!」
だからなんでそこは即答なんだ…。

「え!?つうか何?問題そこ?」
……確かに。何をオレは血迷って馬鹿な質問をしてしまったんだ。

「じゃあさじゃあさ、俺がオメーのこと抱けたら付き合ってくれるってこと?」
また幽助がカウンターにこれでもかと身を乗り出してくる。
「無理。」
睨む様に言ってやった。

すると幽助は、「ちぇ〜っ」と身を引いて口を尖らせるものだから、不覚にもオレは彼をかわいいと思ってしまった。

一瞬だけだけど!
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