幽蔵LOGetc.

□過去web拍手LOGその5。
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【candy】

「ほら、これ。」
「え?何です?」
会社帰り、幽助の屋台で丼を空にした蔵馬は、店主から小さな箱を手渡された。

「ん?ホワイトデー。」
丼の代わりに熱燗を出しながら、幽助は答える。
「え、本当に!?いいの?」
目を丸くしながらも嬉しそうに箱を手に取り、蔵馬は微笑んだ。
幽助も優しく笑って、開けてみろよ、と促す。

蔵馬が丁寧に包みを開けると、そこには小さな薔薇がモチーフに描かれたネクタイピン。勿論蔵馬の好きなブランドのものだった。
「会社にいる時もさ、なんか俺のあげたもん、持ってて欲しくてよ。」
女みてぇ?と少しはにかみながら言う幽助に、蔵馬は笑って首を振った。
「ありがとう。嬉しい。」

すると蔵馬はお返しに、と何やら会社の鞄の中を漁り始めた。
そして蔵馬が取り出したものは…

「車の鍵?」
頷く蔵馬。
「買ったんだ。」
「え!?マジ!?つかオメー免許なんか持ってたんか!?」
カウンター内から身を乗り出して、幽助は聞いた。
「まあね。で、ドライブでもどう?」
蔵馬の言葉に幽助はすかさず答えた。
「行く行く!」
嬉しそうにそう言った幽助に、蔵馬もホッとして笑った。

「なんだ〜。オメー免許持ってたのか〜。俺も取ろうかな。」
幽助はう〜ん、と悩み始める。
「やめた方がいいよ。」
「なんで!?」
「視力検査とか、キミ、気を使える?オレたちの視力、普通の人間と違うんだよ?」
「…あ〜。」
「それに免許の更新とか、キミめんどくさがらずに行けるの?」
そう言われてしまうと、面倒くさがりの幽助はぐうの音も出ない。

ふふっと笑う蔵馬に、幽助は顔を上げた。
「いいじゃない。こういう時くらい、年上らしいことさせてよ。」








翌日、幽助のマンションの前には、一台の車。
それに寄りかかるようにして立つ恋人を見つけて、幽助は嬉しそうに駆け寄った。
「絶好のドライブ日和だな。」
そう言う幽助に、蔵馬も嬉しそうに笑って、助手席のドアを開けた。
「どうぞ。」
けれど幽助は、乗り込まずにチラリと蔵馬を見やった。
「なんかエスコートが様になっててムカつく。」
蔵馬はクスクスと笑って、
「ではお手を取りましょうか?」
とおどけた。
そんな蔵馬に、「バーカ」と幽助は言って、今度こそ車に乗り込んだ。


蔵馬は慣れた手付きでエンジンをかけると、車を発進させた。
幽助は、
「寝ててもいいよ?」
と言う、蔵馬の横顔を盗み見ていた。
初めて見る、運転する蔵馬の横顔は同じ男から見ても格好良いと思えた。

「それ、着けてくれたんだ?」
突然の蔵馬の言葉。
「え?」
「腕時計。」
幽助の左手首には、去年のクリスマスに蔵馬から貰った、黒革のベルトの腕時計。
「着けてるところ見ないから、気に入らなかったのかと思った。」
「そんな訳ねぇじゃん!なんか…勿体無くてっつーか…傷付けたくなかったつーかよ…。」
幽助の言葉に、蔵馬は黙って微笑んだだけだった。
ハンドルを握る蔵馬の手首には、付き合う前に、幽助が蔵馬に贈った二連のシルバーのブレスレットがしっかりとはめられていた。



それから二時間も走っただろうか。
周囲の景色に、幽助は身を乗り出して感嘆の声を上げた。
「すげー!!めっちゃ気持ちいいな!」
窓を開けて、幽助はそこから入る風を受け止めた。

左には大きな湖。右には鮮やかな緑の山。そして目の前にはまっすぐと伸びるドライブウェイ。

「空は青いし、ドライブは気持ちいいし、隣には蔵馬!」
そう幽助が言うと、蔵馬はクスッと笑って、
「何?それ?」
と聞く。
「最高ってことだよ!」
窓から入る風が、幽助の髪を揺らす。

「平和だなー!」
大きく伸びをしながら、幽助は叫んだ。
「キミには物足りないんじゃないの?」
そう言った蔵馬に、幽助はニヤリと笑う。
「オメー何言ってんだよ?オメーといたら物足りないなんてことある訳ねぇって。」
それから幽助は、蔵馬の頬にキスをした。
「!!」

瞬間、ブォン!と音を立てて、車が大きく揺れた。
「うおっ!痛って〜!」
バランスを崩した幽助が、思い切り助手席のドアにぶつかる。
「馬鹿ですか!?何考えてるんです!?」
怒鳴る蔵馬の頬は真っ赤に染まっていて、幽助は痛みを忘れて笑い出した。

「そんな動揺するとこか?」
「今運転中!状況考えて下さい!!」
「えー!じゃあよ…。」
そこで言葉を切らせた幽助に、蔵馬は不思議に思って顔を向けた。

「キスしてい?」
一瞬目を見開いた後、蔵馬は慌てて視線を前に戻した。
「状況考えてって言ったよね!?」
「うん。だから確認してんじゃねーか。」
しれっと答える幽助を、蔵馬は横目で睨んでから、突然プッと吹き出した。

「…なんだよ?」
訝しそうな目で見る幽助に、蔵馬は笑いながら、
「平和だなー!なんて言った直後だったから、可笑しくて。」
と言った。
その言葉に、幽助もゲラゲラと笑いだした。

「ホントだよな!一瞬すげーヒヤッとしたわ!」
「それはオレのセリフ!思いっきり反対車線飛び出しましたからね。買ったばかりの車、ダメにするかと思いましたよ。」
「え!?そこ!?」


春の風が、そんな二人の笑い声を乗せて、流れた。

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