幽蔵LOGetc.

□過去web拍手LOGその6。
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【薔薇の人】


「わり、お待たせ。」

コンビニで切れたタバコを買い、外で待たせたままの蔵馬の元へと幽助が戻ると、蔵馬はコンビニのガラスに貼られたものを、何やら食い入るように見つめていた。
ひょいと横から覗き込むと、そこには『世界ローズガーデニングショー』の文字と、色とりどりの薔薇の写真。

「何?行きてぇの?」
聞く声に、やっと蔵馬は幽助の存在に気が付いたのか、ハッとして振り向いた。

「あ、買った?」
「ん。」
チラリとタバコを掲げると、蔵馬は頷いて行こうか、と歩き出した。
けれどチラチラと件のチラシを振り返る。

「行きてぇの?」
もう一度幽助が問うと、蔵馬は躊躇いがちに頷いた。
「でも…今日までみたい。」
そう言って、蔵馬は首をすくめた。
「キミは…行きたくない、よね?」
「ん〜…。」

正直なところ、幽助は植物にこれっぽっちも興味はなかった。
それに植物園ならまだしも、今蔵馬が行きたがっているのは薔薇園だ。
男2人で行くものではないことは明らかで、幽助は渋い顔をした。

そんな幽助の考えを見透かしてか、
「なんならオレ、女装しますから。」
と蔵馬は言ってのけた。
「や、別にオメーはわざわざ女装しなくても…」
「何か言った!?」
幽助の言葉を最後まで聞くことなく、蔵馬の鋭い声が重なる。

つーかそんなに行きてぇのかよ…。

日頃から女性に間違われることを異様に嫌がる蔵馬が自分から女装するとまで言ったのだ。相当行きたいのだろうなと幽助にもわかるが、あまり気乗りしないことも確かで…。

「つかさ、薔薇っつっても、オメーの武器だろ?そんなのわざわざ見に行ってどうすんだよ?」
思ったままを口にすると、急に蔵馬は身を乗り出して喋りだした。

「じゃあね?キミがロールプレイングゲームの主人公だとします。」
「…は?」
「世界各国の武器が集まる武器屋に、キミは入りますか入りませんか?」
「…え?」
「但し、武器屋に入るにも入場料が取られます。さぁどうする!?」
「……まぁ、入るわな。」
「でしょう!?」

いやいや待て。でしょう!?じゃねぇよ…。

「例えそこに入って、目当ての武器がなくても、一度は入りたいって思うでしょう!?」
え、まだその例え続いてんの?
と幽助は思うが、縋るような目で見つめられては
「わーったよ。」
と言うしかなかった。
すると蔵馬は心底嬉しそうに笑って、
「ありがとう!!」
とギュッと幽助の腕に抱き付いた。

ちょ、お前それ反則…
と突然の蔵馬からのスキンシップに、幽助はこっそり頬を染めた。




会場への道すがら、幽助はふと気になってたことを聞いてみた。
「な、お前なんで赤い薔薇チョイスしたの?」
ん?と蔵馬は幽助を振り返るとフッと笑って、
「オレに良く似合うでしょう?」
と目を細めた。
「………。」
「わー!冗談だからそんな本気で引かないで下さいよ!」
テンション高ぇ…。
と軽くげんなりしたものの、幽助は腕から離れていかない蔵馬の体温に満足していた。

けれどそれも束の間、会場へ着いた途端、蔵馬はするりと幽助の腕を解いて動き回った。

ジッと真剣に見つめていたかと思えば表情を緩めてみたり、キラキラと目を輝かせて食い入るように見つめてみたりと、普段の落ち着いた様相からはかけ離れたものだった。

時々幽助を振り向いてふわりと笑う。

そんな蔵馬に、一緒に来て良かったなと幽助は思った。

いつも落ち着いていて、コロコロと表情など変えない大人びた蔵馬の子供のような姿は新鮮で、見ているだけで飽きなかった。


ひとしきり花を愛でて満足したのか、
「ありがとう。帰ろう?」
と蔵馬は先に立って歩き出した。
「何か収穫あったか?」
「ん〜ちょっと失敬しようかなとも思ったけど、止めておいた。」
そう言って穏やかに笑う蔵馬に、
「ちょっと待ってろ」
と幽助は声をかけると、出入り口の前で蔵馬を待たせ、会場内へと戻っていった。

不思議に思いながらも蔵馬が待っていると、真っ赤な薔薇の花束を抱え、幽助が戻ってきた。
目を見開いて呆然としていると、幽助は「ん。」と言いながら、蔵馬に花束を差し出した。

「わ!見てあの彼氏!」
「あんなことされたーい!」

周りで見ていた女性たちから、羨望的な声が上がると、幽助は頬を染め、
「恥ずかしいから早く受け取れって!」
とぶっきらぼうに言った。
黙って蔵馬がそれを受け取ると、幽助は優しく笑った。
「色んな綺麗な薔薇あったけどさ。やっぱりお前にはそれが似合うよ。」

蔵馬は少しの間幽助を黙って見つめたあと、その日一番の笑顔を、その顔に咲かせた。

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