幽蔵LOGetc.

□過去web拍手LOGその8。
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【線香花火】


「夏と言やぁ海だよなー!」
叫ぶ幽助の背中を見つめて、蔵馬はクスリと笑みを零した。
「夏の海なら、普通は昼じゃないの?」
クスクスと笑う蔵馬を振り返って、幽助は優しく笑う。

「そうかも知れねぇけど、花火してぇじゃん?海で花火とか、夏!!って感じで良くね?」
「キミ、夏になると異常に元気になるよね。」
呆れながらも笑みを絶やさない蔵馬に、幽助はただ笑っただけだった。

本当は、昼の海の方が好きだった。
それでも暑さを嫌がる蔵馬の為に、夜を待っていたということを、幽助は胸の奥に隠した。


水平線の上には琥珀色の満月が浮かび、水面に映る月光が、まるで月までの道を標しているようだった。


波の音だけが、二人を優しく包む。

蔵馬の一歩前に、幽助の背中がある。
満月を背景に佇む幽助を見ると、蔵馬はいつも不安になった。
人間から、今にも完全に妖へと変貌してしまいそうで。
或いは、自分を捨てて何処か遠くへ行ってしまいそうで。
その両者とも言える。
完全に妖怪へと覚醒してしまった時、幽助は人間臭さを捨てられずにいる自分の元を去るような気が、蔵馬にはしていた。


「花火…やらないの?」
問いかけた蔵馬に振り向いて、幽助は
「やるやる!」
とおよそ人間の少年らしく笑った。



買った花火に幽助のライターで火をつけると、暗い海辺に七色に変わる光が灯る。
煙に追われながら、二人は無邪気に花火を振り回した。


大量に買い込んだ筈の花火も、二人で持てば灰になるのも早い。

「やっぱ締めは線香花火だろ!」
という幽助の手元には、もうその花火しか残されていなかった。

再び暗くなった砂浜の上、二人で寄り添うようにしゃがみ込む。
幽助が付けたライターの火に、二人で同時に花火の先を近付けた。


パチパチと控え目な音が、黙った二人の間で鳴る。
朱色の光が、二人の頬を照らしていた。

「線香花火さ、最後まで落とさねぇで出来たら、願い事が叶う、なんて言うよな?」
「そうなの?」
幽助の言葉に、蔵馬は思わず真剣に手元で弾ける花火を見つめた。

蔵馬の持つ朱色の玉は、今にも落ちそうにゆらゆらと揺れている。
「あ、落ちそう…。」
悲しげに言う蔵馬を、幽助は愛おしそうに見つめた。
そして己の小さな炎の塊を、そっと蔵馬のそれに近付けた。

2つの玉は重なって、一つの大きな光になる。
それでも自身の重さに耐えられず、すぐに砂にポトリと落ちて消えた。

「あーあ…。キミがそんなことするから…。」
消えてしまった先の砂を恨めしそうに睨みながら、蔵馬は寂しそうに呟いた。
「いいじゃねぇか別に。落ちる時も、一緒だろ?」
「……え?」

これからも、ずっと幽助と共に居たいと言う蔵馬の願いは、幽助に伝わっていたのだろうか。

「つーかこんなちっぽけなもんに、願いなんて叶えられる訳ねぇだろ?」
「キミが言い出したんだろ?」
ムッとして言い返した蔵馬の瞳に、優しく見つめる幽助の顔が映る。

「こんなもんにお前の願い叶えられてちゃたまんねぇよ。」
幽助は蔵馬の肩に流れる髪を、さらりと引き寄せた。
「オメーの願い、叶えるのは俺だから。」
「幽…」
呼ぶ蔵馬の唇を、幽助は優しく塞いだ。

月明かりに映し出された二人のシルエットが、重なり合う。

辺りには、重なる影と、波の音。

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