幽蔵LOGetc.

□過去web拍手LOGその18。
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【sweet lover】


「ちぇ…」
思わず子供のような舌打ちをした幽助の視線の先には、『ごめん、まだ忙しい』と恋人から届いたメール。
その内容はここ数通何も変わらずに届いている。
はぁ、と溜め息を零し、
『了解。無理すんなよ?飯もちゃんと食えな。俺のことは気にしなくていいからよ。』
と指を滑らす。
俺のことは気にしなくていい、なんて本当に思っている訳ではなかったが、自分も嘘が上手くなったものだと幽助は思う。
少しの後、蔵馬から届いたメールは、『ありがとう。』の一言だけ。

「少しは気にしろよ…。」
携帯の画面を恨めしく見つめながら、独りごちた。
こういう時は酒を飲んで忘れるに限る。
そう思ったのが間違いだったと、幽助が気付くはずもなかった。






「大丈夫?幽助くん。」
「んー…」
飲み過ぎてふらつく幽助を支えるのは、たまたまバーで声を掛けてきた見ず知らずの女。
明るくよく話し、けれど相手の話に耳を傾けることも忘れないその女性とつい話が盛り上がった。
酒が回り、その女が色目を使い始めたことに気付かないこともなかったが、蔵馬に放って置かれて久しい幽助も、悪い気はしなかった。

「部屋、もうすぐだからね?」
ピタリと豊満な体を押し付けて、言う女に
「さんきゅー。」
と幽助が腕を回した瞬間、
「幽助?」
と背中から聞こえる筈もない声が掛かった。

ハッと振り向くと、忙しいと己を放っておいた恋人の姿。

なんで今、このタイミングで…?
自問自答する幽助に蔵馬は表情を変えず、
「あなたは?」
と幽助の隣に佇む女に問う。
「あ、なんか幽助くん飲みすぎちゃったみたいで。送ってきたんです。なんだか元気もなかったから私心配で。」
女が再び腕を絡ませても、蔵馬は表情を変えなかった。
それどころかニコリと笑う蔵馬に、幽助は苦く目を逸らせた。

けれど蔵馬は、
「それはどうも。後はオレが居るから大丈夫。」
と幽助と女の間に割り込むように身体を滑らせた。
「でも…。」
突然離された幽助との距離に、女は不満そうに眉を寄せる。
「ああごめん。邪魔した?悪いね。でもこの男に色じかけするような女性は相応しくないからさ。」
その言葉に幽助は驚いて蔵馬の横顔を凝視したが、馬鹿にされたと気付いた女はかあっと顔を赤らめて足早にその場を去った。

蔵馬が女性に対して、ああいう物言いをするのは珍しい。
呆然とする幽助の腕を、蔵馬はぐいと引っ張った。
「っ痛…」
玄関を開け、強引に幽助の身体を中に入れると、蔵馬はソファーに幽助を突き飛ばすようにその身体を押す。

「何すんだよっ」
声を荒らげて蔵馬を見上げた幽助は、ギクリと顔を強ばらせた。
冷たい瞳で、蔵馬が己を見下ろしていたから。
「何するんだって、こっちのセリフ。何しようとしてたの?あの女が言ったように、オレ邪魔でした?」
抑揚のない声で言う蔵馬に、幽助は思わずカッとなる。
「なんだよその言い方…!なんで俺が責められなきゃいけねぇんだっつーの!元はと言えばお前のせいだろ!?お前が俺のことほったらかしにしたんじゃねぇか!」

言ってから、しまったと幽助は思う。
なんて子供じみた事を言っちまったんだ。
俺のことは気にするなと、言ったのは自分じゃねぇか。と。

きっと蔵馬を傷付けたに違いない、と幽助は恐る恐る蔵馬の顔を伺い見た。
若しくは呆れられてしまったのではないかと。

けれど蔵馬は何故かゆっくりとその顔に笑みを広げたから、幽助は驚いた。
「良かった。」
「……え?」
何が良かったというのだろう、と幽助がジッと蔵馬を見つめると、蔵馬は幽助と視線を合わせるようにその場に腰を下ろした。

「やっと言ってくれた。」
優しく幽助を見つめ、その頬に蔵馬は手を伸ばした。
「ごめん。最近、ずっと我慢させてきたでしょう?」
「な、んでだよ…そんなことねぇって。」
見透かされたようで、幽助は蔵馬から目を逸らせる。
「オレはね、幽助。キミが我が儘言ってくれないと、不安だよ?」
え?と視線を戻す先に、蔵馬の優しい微笑みがある。
「キミの我が儘、聞けるのはオレだけだと思ってたし、我が儘言われなくなったら、オレのことなんて、もうどうでもいいのかなって、思う。」
その言葉と蔵馬の視線に、幽助の胸はぎゅっと鳴った。
「だから我慢しないで、もっと我が儘言ってよ。」
「んなこと言ったら…俺すげぇ無茶言うぜ?」
「うん。」
「我が儘言って、オメーのこと困らせるかも。」
「うん。」
「それでも…お前いいの?」
「そんなキミがいいんだけど。」

適わねぇな、と幽助は蔵馬の手を握る。
「お前、マジで甘やかす天才だよな。」
「……キミ限定でね。」

幽助はゆっくりと蔵馬の肩に顔を埋めた。
蔵馬のスーツからは、嗅ぎ慣れない会社の匂いがする。
「蔵馬…好きだ。」
零れた言葉に、
「………知ってるよ。」
と優しい声が、幽助の耳に届いた。

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