kissで星物語は薔薇になる

□DayDream
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約10分後、蔵馬がキッチンから戻ると、夥しい量の空き缶が幽助の周りに散らかっていた。
そしてその中心には、テーブルに突っ伏したままの幽助。

「…え?これまさか?」
「そ。全部浦飯。」
蔵馬に苦笑いで答える桑原。

「オレ、そんな長い時間、席立ってましたっけ…?」
ほんの10分程度だと思っていたけれど、と蔵馬が立ち尽くしたまま言う。
「いや。全部一気飲みしやがってよ。」
「そう…。」
呟いて、蔵馬はもう一度キッチンに消えたかと思うと、すぐにゴミ袋を手に戻ってきた。
一つ一つ空き缶を拾い、ゴミ袋へと入れる蔵馬を、桑原が手伝う。
「俺こっちやってるから、浦飯運んでやれよ。」
蔵馬はその言葉に甘えて、幽助を寝室へと運んだ。
リビングへと戻ってくると、散らかっていたいた缶は綺麗に片付けられていて、桑原は帰る支度をしていた所だった。

「帰るんですか?」
「おう。浦飯頼むな。」
そう言って玄関へと向かう桑原を、蔵馬が見送る。
「ごめん、なんか変なとこ見せたね。」
少しだけ悲しそうに言う蔵馬に、桑原が優しく笑う。
「お前もあんま意地張んなよ?」
ポンと蔵馬の頭を叩いて、桑原は幽助のマンションを後にした。



部屋を片付け、蔵馬は眠る幽助の顔を見つめた。
そっと腰をかがめ、その頬にキスを落とす。
顔にかかる蔵馬の髪がくすぐったいのか、幽助が微かに身じろいだ。
「ん…蔵馬…?」
答えずにジッとその寝顔を見ていると、寝ぼけたままの幽助が、寝ているとは思えない程の力で蔵馬の腕を引き、布団の中へとその身体を抱き入れた。
「幽助…?」
蔵馬の呼ぶ声に答えたのは、すぅすぅと言う寝息。

キュッと幽助の身体に抱き付くと、無意識の中でも、幽助は優しく抱き締め返してくる。
「ごめん…。」
そっと蔵馬は呟いて、幽助の腕の中で、心地良い眠りの波に、身を委ねた。











「あったまいてぇ〜。」
翌朝、ガンガンと響く頭痛に幽助は目を覚ました。
飲み過ぎたかな?と隣を見ると、昨夜確かにこの腕に抱き締めて眠ったハズの蔵馬がいない。

「う〜蔵馬…?」
痛む頭を抑えつつ、愛しい恋人の名を呼ぶ。
ガチャリとドアの開く音に顔を向けると、
「あ、起きた?」
と蔵馬が部屋へと入ってくる。

「起きた…。めっちゃ頭いてぇんだけど…。」
眉間に深く皺を寄せ、唸る幽助に蔵馬が笑う。
「キミ、あんなに無茶苦茶に飲むんだもの。」
そう言ってコップに入れた水を幽助に渡す。
「サンキュ。」
言いながら受け取って、ふと気付く。

「蔵馬、今何て言った?」
「?」
首を傾げながらも、
「あんなに無茶苦茶に飲むんだもの。」
と同じセリフを繰り返す。

「違くて、その前。俺のこと、なんて呼んだ…?」
「え?キミ。どうして?」
いつもそう呼んでるでしょう?とキョトンとする蔵馬に、幽助の顔が強張る。

「そんな風に呼んだこと、ねぇよな…?」
信じられないものを見るようような瞳で自分を見つめる幽助に、蔵馬も表情を消した。

「お前、誰だ?幽助に化けたつもりか?」
ベッドに呆然と座る幽助を、蔵馬の冷たい視線が射抜く。

「や、ちょ、ちょっと待てよ。おめぇこそ誰だよ?蔵馬は…?」
幽助の言葉に、蔵馬はスッと薔薇を髪の中から取り出し、
「蔵馬はオレだ。貴様こそ誰だ。返答次第では容赦しない。」
目を細めて幽助の姿をした奴を睨んだ。

「いやいや!俺幽助だっつーの!蔵馬なら俺の妖気わかるだろ!?」
立ち上がり必死で訴える幽助に、蔵馬は僅かに表情を緩ませた。

………。
確かに妖気は己のよく知る幽助のものだった。
しゃべり方も、容姿も、何一つ記憶の中の幽助と違いはない。

「どういうことだ…?」
警戒を解かぬまま、蔵馬は目の前の男を観察する。
「いや、俺が聞きてぇよ。つかおめぇは本物の蔵馬なんか?」
訝しる幽助に、もう一度薔薇を見せて
「試してみるか?」
と蔵馬は聞く。

「ちょーっ!!俺の部屋で鞭なんか振り回すなよ!?」
「!?」
驚きの表情を浮かべる蔵馬に、幽助は首を傾げた。
「どうした?」
「なぜオレの武器が鞭だと知っている?」
「だーかーら!俺幽助なんだって言ってるだろ?」

少しの間迷った後、蔵馬は薔薇の花をしまった。

口元に手を当てて考える。
確かに目の前の男は幽助と同じ容姿で、同じ妖気を持っている。
喋り方も変わらない。
なのに何故、キミ、と呼んでいたことを忘れてしまっているのか。

「昨夜の記憶は?」
訊ねる蔵馬に、
「忘れる訳ねぇだろ?一緒に水族館行こうなって、約束したじゃねぇか。」
と幽助は答える。
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