kissで星物語は薔薇になる

□two hearts
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パラレルワールド。
そんなの存在する筈がないと多くの人が口を揃えるだろう。
けれど幽助と蔵馬は身を持ってその存在を知ってしまった。

その日以来、幽助は蔵馬を強く抱き締めて眠った。
再び己の蔵馬から離れぬように。
或いは蔵馬が飛ばされてしまわぬように。

けれど本来楽天的な性格である幽助。
不安でいたのは最初の1ヶ月の間だけで、3ヶ月という月日が流れる頃には、あの1日は夢だったんじゃなかろうかと思える位にまでなり、強く抱き締めて眠ることはなくなった。


そしていつも通りの週末。

週末こそ書き入れ時である筈の屋台だが、店主の気まぐれで開かれることも多いその屋台。
今日も恋人との逢瀬をゆったりと楽しむ為、幽助の屋台には“休業”との殴り書きされた紙だけが残されていた。







『もうすぐ着く。』
蔵馬らしい簡潔なメールに、幽助は表情を緩ませた。
文面通り、5分程で玄関のチャイムが鳴り、幽助は蔵馬を迎え入れた。

「お邪魔します。」
と言う蔵馬が部屋に上がりきる前に、幽助は蔵馬をぎゅ、と抱き締めた。
「お疲れ。」
労う幽助の言葉に蔵馬はふっと笑うと、蔵馬は幽助の首筋に顔を埋めて、幽助の香りを確かめる。


「あ〜幸せ。」
「どうしたの?突然。」
そう聞く蔵馬の表情も幸せそうに笑んでいて、幽助は益々蔵馬を強く抱き締めた。

すると蔵馬は唐突に、
「あ、そうだ。会社の子からお土産貰ったんだけど、一緒に食べない?」
と幽助の腕をすり抜けた。
そのことに幽助はムッとしたが、差し出されたものに、
「あ…。」
と表情を緩めた。

蔵馬の手には、イルカを形どったクッキー。
「会社の女の子たちで水族館行ってきたんだって。」
「へぇ。俺もこの前行ったな。」
そう言って蔵馬の手からそれを受け取ろうとすると、スッと蔵馬に避けられてしまった。

怪訝に思い蔵馬を見ると、射抜くような視線。
「誰と行ったんです?」
「え!?」
「誰と?」
冷たい蔵馬の表情と声に幽助は慌てた。

「いやいや!浮気なんてしてねぇぜ!?お前と行ったんだって!あ!お前ってアレな!もう一人の蔵馬な!」
言うと蔵馬は冷めた笑みを浮かべた。
「それを浮気じゃないって言うんだ?ヤることヤったくせに。」
「はぁ!?お前さ…。」
自分のこと棚に上げてそれ言うか!?

蔵馬は幽助の手にクッキーを押し付けると、ドサッとソファーへ腰を下ろした。

「なぁ蔵馬…。」
幽助の呼びかけに反応を示さず、蔵馬は黙って目を伏せた。
蔵馬の様子に幽助はフッと笑うと、蔵馬の横に腰を下ろし、
「ヤキモチ?」
と顔を覗き込んで悪戯っぽく聞いた。

蔵馬は薄く目を開けると幽助を睨む振りをした。
「ダーイジョブだって。あれからもう3ヶ月も経つけどさ、何もねぇじゃん!だからさ、心配ねぇって。」
そう言って、幽助はグリグリと蔵馬の頭を撫でた。

「別に心配なんてしてませんしヤキモチも妬いてません。」
そう言いながらも、蔵馬は頬を染めた。
それからチラリと上目遣いに幽助を見ると、
「楽しかった?水族館。あっちのオレと行って。」
と遠慮がちに聞いた。

「なんだよ、やっぱヤキモチ焼いてんじゃん。」
蔵馬はその言葉に返事をせずに、コツンと幽助の胸に体を預けた。
「今度は…オレと行って下さいね。」

幽助は返事の代わりに、蔵馬に軽く口付けをした。



そうしていつも通りの週末の夜は、穏やかに更けていく。
再びあの非現実的な出来事が訪れることを、この時の二人は未だ知らない。
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