kissで星物語は薔薇になる

□誓いよ、どうか永遠に2人の中に…
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「原因はこれか…。」
テーブルに無造作に置かれた物に、オレは一人呟いた。

ここ最近幽助の元気がなくて、心配していた。
何かあったのか?と聞けば、幽助はきっと無理して笑うだろうから、気付かないフリをしていた。
オレの前で無理な笑顔を作るくらいなら、素直に落ち込んでくれた方がいい。
そしたらオレも、黙って傍にいれるから。



コンビニに寄るから先に上がってろと言われ、オレは一足先に幽助の部屋にお邪魔していた。
そこで見つけた物。
白い一通の封筒。
結婚式の招待状だった。
差出人の一人に、雪村螢子の名前。
その上には、知らない男の名前。


そっと手に取ると、それはまだ未開封のままだった。
幽助…。

ガチャリと玄関が開いて、幽助が部屋へ上がってきた。
オレの手元にチラリと視線を寄越す。
「あ、それお前の。」
と幽助は無表情に言って、オレの隣に腰を下ろした。

「螢子がお前にもって。都合つくか?」
「……キミが行くなら、都合つけるよ。」
答えると、幽助は、
「ん。」
とオレを見ずに頷いた。

幽助に気付かれないようにオレはクスッと笑って、
「幽助、おいで?」
と腕を軽く広げた。
「……。」
幽助はオレをチラリと見やってから、
「なに?」
と聞く。
「いいから。おいで。」
言ってやると、幽助は大人しく俺の腕の中に収まった。

ぎゅ、とその体を抱き締めると、幽助は少しだけ拗ねたように、
「なんだよ?」
と言う。
「淋しい?」
問い返したオレに、幽助は
「……そんな訳ねぇだろ。」
と答えたけど、その声はとても静かで、馬鹿だな、と思う。

「落ち込んだりしたら、オレに悪いとか思ってる?ずっとキミが守ってきた子が、他の男と結婚するんだよ?淋しくない訳ないじゃない。」
「……だから、別にそんなんじゃねぇし、落ち込んでもねぇよ。」
それでも幽助は、縋るようにオレの背中に腕を回した。

オレ以外の人を想って、落ち込む彼さえも愛おしい。

「嘘つきだね。」
優しく言って、もう一度、オレは幽助を抱き締め直した。
幽助はもう否定したりせずに、オレの肩に顔を埋めた。






迎えた6月の結婚式。
梅雨の空が嘘みたいに晴れて、雨で洗われた空気も、澄んだ日だった。

森の中の可愛らしい教会で、式は行われた。

純白のドレスに身を包んだ幽助の幼なじみは、もう少女と呼べない程、一人の女性として幸せそうに笑っていた。

教会の祭壇の向こうには、ステンドグラスが太陽の光を通して、愛を誓う2人を祝福していた。

幽助はオレの横で、真っ直ぐに彼女を見つめている。
俯いたりせず、しっかりと顔を上げて。



フラワーシャワーが零れる中、花嫁と花婿は腕を組んで、とても眩しく笑った。
祝福する周りの人たちも笑顔で、本当に幸せそうだった。
幽助は一歩離れた所で、そんな彼女を優しく見つめていた。
幽助に気付いた彼女が笑う。

足元に落ちた花びらが、彼女を包むように舞い上がった。

「すごーい!!」
「綺麗…!」

周囲の人たちも、彼女も、空高く舞った花びらを見上げて声を上げた。





披露宴会場へ人々が移動を始めた頃、幽助が一人教会に入っていくのが見えた。
オレもそれを追って、そっと教会の扉を開ける。
祭壇の前に、幽助の後ろ姿。
表情は見えなかったけれど、彼はまっすぐに前を向いていた。

どんな顔で、そこにいる?
……後悔、しているのだろうか。


「披露宴、行かないの?」
彼と距離を開けたまま、彼の後ろ姿に問う。
「行く。お前、先行ってな。」
振り向かずにいる幽助に、不安がのしかかる。
けれどそんなオレに気付いたのか、黙ったまま動かないオレに、幽助は振り向いた。

「俺もすぐ行くからさ。」
幽助は笑っていた。
いつもと変わらない笑顔で。

オレはそれにホッとして、教会を後にした。
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