kissで星物語は薔薇になる

□徒花は夜空に咲く
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「俺、お前のこと好きなんだけど。」


数日前、突然の幽助からの告白。
暑い、夏の昼下がりだった。
蝉の声が毎日うんざりする程だったのに、その瞬間だけは、幽助の声以外、何も聞こえては来なかった。

けど、の続きを、オレは未だ聞けてない。
けど、なんなのだろう。

嬉しくなかったと言ったら嘘になる。

あの強く、眩しい少年を自分の物に出来たらと、心の底ではずっと願っていたから。






「夏祭り行こうぜ。」
そう幽助から誘われたのはつい昨日のことで、オレが二つ返事で頷いたのは言うまでもない。

そういえば母さんから浴衣が送られて来ていたなと思う。
袖を通すことはないだろうと思っていたけれど、彼女の好意を無駄にしなくて済みそうだ。


深い藍色の浴衣に袖を通して、待ち合わせ場所に着いて驚いた。
まだ時間の10分程前田と言うのに、幽助がいたから。
彼は黒に近い、濃いグレーの浴衣を着て、袖を捲り、逞しい二の腕をさらけ出している。
見馴れない浴衣姿。
思わず足を止めて見つめてしまったオレに、幽助が気付いて笑ってくれた。

ハッとして彼の傍へ寄ると、彼はオレを見てはにかんだ。

「なんだよオメーも浴衣?せっかく幽助の浴衣姿かっこいい!って思って貰おうと思ったのによ。オメーのが似合ってんじゃねぇか。」
畜生、と幽助は口を尖らせた。
…全く、キミはどこを見てるんだか。
キミの方がよっぽど…。




会場となる土手に着くと、予想以上の人混みに唖然とする。
「人すげぇな。」
幽助も僅かに眉をひそめてから、
「はぐれんなよ?」
と温かい瞳でオレを見つめた。
「もう。子ども扱いしないで下さいよ。」
なんて言ったものの、彼の優しさが嬉しかったのも事実で。

なのに幽助は、
「オメーが女物の浴衣着てたら手繋いだり出来たのによ!」
なんておどけた。
「なんか言った?」
横目に彼を睨むと、クッと彼は喉を鳴らした。

そういう、彼の紳士になりきれない所も好きだなぁ、なんて思う。
当たり前のようにオレと手を繋ぎたいと思ってくれたことも、嬉しい。

「ま、はぐれても、絶対見つけてやるから。」

……優しい真っ直ぐな瞳でそんなこと言われてしまったら、ほら、オレの方が彼に触れたくなってる。


出店がところ狭しと立ち並ぶ中で、幽助は無邪気な子どものように目を輝かせた。
「祭り好きなの?」
聞くと彼は満面の笑みで、
「めっちゃ好き!」
とオレを振り向く。
「人混み嫌いそうなのに。」
呟いたオレに、幽助は目を丸くして、
「よく解ってんな、俺のこと。」
と言う。

しまった。
別に彼への気持ちを隠すつもりはないけれど、改めて言われると流石に気恥ずかしい。

パッと目を逸らせてしまったけれど、幽助はただ笑っただけだった。

こんなに沢山の人がいるのに、オレの目にはもう、彼しか映っていない。




「お!金魚すくい!やろうぜ蔵馬!」
暫くただ店を眺めているだけだった彼が、オレの腕を引く。
「オレ見てるから、やりなよ。」
言うと幽助は少し何かを考えた後、ニヤニヤと笑ってオレに詰め寄った。

「もしかして、苦手?」
図星を突かれては何も言えない。
でも、
「オメーにも出来ねぇもんとかあったんだな!」
と嬉しそうに言われては何だか悔しい。
「別に出来ない訳じゃないですよ。」
ムッとして言い返すと、幽助は案の定、
「じゃあやってみろよ。」
なんて言う。

「わかりましたよ。でもちょっと待って。」
「え?なんで?」
「計算するから。」
言いながら方程式を頭の中で組み立てる。
「え!?何を!?」
「だから摩擦力とか、金魚の重さとかポイにかかる力とか。」
早口で言葉を紡ぐと、
「やめろー!」
と幽助はオレを制止した。

「…なんです?」
顔をしかめたオレに、
「なんですじゃねぇよ!そんなつまんなくなるようなことすんな!」
焦り顔で幽助は叫んだ。

それから呆れたようにオレを睨んで、
「ったく。こういうのは計算じゃねぇの!俺がやってやるから見てろよ。」
と何匹もの金魚が泳ぐプールの前に腰を下ろした。
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