おはなし きすまい
□精いっぱいの勇気のその先は
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『あの映画おもしろかったねー。最後やばかった!』
今は付き合って間もないちひろとの初デートの帰りで、公園のベンチに座っている。
俺の仕事の都合でこうやって会える時間は少ないけど、それでもいいと言ってくれている。
「ほんとだね!あれは笑った」
『ねー。また来ようね』
「うん、遅くなってごめんな?」
本当は夕方から会うつもりだったけど、仕事が長引いて夜からになってしまった。
『ううん、大丈夫だよ。こうやってちょっとだけでも、会えるだけで充分だよ。』
「ありがとう」
そう言って少し俯きながら微笑んだ。
「ちょっとしか会えなくてごめんな、本当はもっと会えたらいいんだけど…。…あ、あの、好きな気持ちは、変わんないから…」
そう言ったところで肩に違和感を感じる。
なんだろうと横を見ると、ちひろが俺の肩に寄りかかって寝ていた。
「…って、なんだよ寝てんのか」
可愛い奴…
寝顔も可愛いんだな、なんて考えているうちに無意識に顔を近づけていた。
このまま、キスしてもいいかな…
「いやいや、寝てるし…」
思わずひとり言を呟く。
「でも…」
勇気を出してさらに顔を近づける。
距離にしてあと数センチのところでちひろが目を開けた。
『…ん、なに?』
慌てて顔を離した。
「いや、前髪に、ゴミついてた…」
目をそらしながら必死に考えた嘘を言う。
『ね、けんと今キス、しようとしてたでしょ?』
その嘘はあっさり見破られていた。
「…えっ!起きてたの?」
『ううん。でもなんとなく』
そう言ってちひろは無邪気に笑った。
精いっぱいの勇気のその先は…