聖者が待つ約束の地:T
□“ヤマト計画”始動。そして……
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冥王星沖海戦から数週間後、『キリシマ』は火星の衛星軌道上にて待機し、『天津風』は周辺警戒のため付近を旋回していた。というのも、「道中火星に立ち寄り、待機している『ウズメ』を速やかに収容せよ」との命令を指令本部より預かっていたからだ。
火星から飛び立ってきた百式空間偵察機、コードネーム『ウズメ』が『キリシマ』舷側に設置されている艦載機格納庫に近づいていく。
絶妙な動きで『ウズメ』はロボットアームにドッキングし、『キリシマ』艦内へ収容されていった。
「『ウズメ』、『キリシマ』への着艦を確認」
「『キリシマ』より通達。“『ウズメ』ノ収容ヲ完了。コレヨリ地球ヘ帰還スル”」
西城の言葉に原は無言でうなずき、藤田に地球帰還軌道へ入るように指示すると、疲れたのか艦長席に腰を下ろす。
彼は冥王星沖海戦が終了してからあまり寝ていなかった。何しろ、目の前で最大の友を失ってしまったのだから。しかも先ほど『キリシマ』に収容された『ウズメ』をみてさらに憂鬱になってしまった。
「(『ウズメ』には…………たしか進くんが…………)」
そう、『ウズメ』には行方不明となった親友、古代守の弟、古代進が乗っているのだ。彼は今頃、この場に『ユキカゼ』がいないことにひどく狼狽していることだろう。進は、故郷の三浦にいた両親と集まっていた親戚一同を遊星爆弾による爆撃で喪ってしまっており、難を逃れていた守が唯一の肉親だった。進にとって年の離れている守は父親的な存在であり、心のよりどころでもあったのだ。
「(俺は……守のことを進くんになんていえばいいんだ…………)」
“たとえどんなことがあろうとも、俺はお前の兄さんを連れて帰る”
それは、原と進が当時交わしたひとつの“約束”だった。
実は原自身も、遊星爆弾による爆撃で家族、親戚一同を喪っていた。だから、その後日に両親、親戚を亡くした守と進の気持ちがよくわかるのだ。それに、そのときの進はまだ幼く、守が存命だったことから何とか精神的に持ちこたえられた。だが、その守までもがいなくなってしまったら、彼はどうなるかわからない。そのため、彼は進に先ほどの約束を真剣に交わしたのだ。
だが、それは今回の戦闘で無残な形で破られてしまった。
そのため、原は進に守のことをどう話せばいいのか、どう謝ればいいのかと堂々巡りに陥ってしまったのである。