聖者が待つ約束の地:T

□艦内巡視
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「それで、いったい何の用だ?」

 そう聞きながら原は回転椅子を回し、艦長室に入ってきた人物、大山敏郎のほうに向いた。

「阿呆、『矢矧』艦長であるお前が『矢矧』を知らなくてどうする。案内しにきたんだよ」

 国連宇宙軍に所属する将兵は軍艦に乗り込む際は「艦内ツアー」が実施される。艦内の機構を把握しておかないと迷ってしまうからだ。

 従来の艦だったらその艦の古参兵。原のように新造艦の艦長に就任した場合は、その建造などに関わった艤装員や技術者が案内を行うことになっている。今回は後者だ。それに大山がやってきたことを踏まえると、彼がこの『矢矧』建造に大きく関わっていることを示していた。

「もうそんな時間か。ではよろしく頼むぞ、技術長」

 イタズラっぽく“技術長”を強調する原に大山はため息をついて答える。

「そんなわざとらしいこといわれても気持ち悪いわ。ホラ、行くぞ」

 大山の砕けた口調は同期とはいえ仮にも上司になった原に言っていい言葉ではない。だが、それが大山の特徴であった。あることで何度戒められてもなかなかそれを改善しない。良くいえば己の信念を貫き通し、悪く言えば頑固な男、それが大山なのだ。

 お互い全く変わっていないなと軽く言葉を交わしつつ、二人は艦長室を後にした。
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