聖者が待つ約束の地:T
□我ガ赴クハ星ノ海原
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「……いよいよか…………」
真田と別れた後、原は艦長室にて備え付けの席に座っていた。ちなみに大山は波動エンジン起動のための作業の指揮をするのでここにはいない。
メ号作戦、矢矧の艦長拝命、ガミラス空母の迎撃、等々……
回想すればずいぶんとあわただしく、濃い日が続いていたな、と彼は今更に思う。
そして、室内に設けられた矢矧のレリーフを見る。それには、外観こそ大幅に変わっているが、兵装配置などに当時の『軽巡洋艦』の矢矧と共通点が多くみられる『宇宙巡洋艦』の矢矧の姿があり。改めてこの艦が間違いなく軽巡洋艦の『矢矧』を名前だけでなく形までも引き継いだ艦だと再認識する。
「(ご先祖さん、天一号前のあんたもこんな気持ちだったんですかい……?)」
と、彼は見たこともない自分の遠い先祖に心の中で問いかける。先祖が乗っていた巡洋艦の名を引き継いだこの艦を操る原の両肩にかかるプレッシャーは並大抵のものではない。しかも今度は日本ばかりでなくこの地球そのものを救う任務を帯びているため、かかるプレッシャーが倍増しているのだ。
おまけに、この時点で『ヤマト』と『矢矧』には不安要素がまだいくつか残っていた。
乗組員のほとんどは新参者で武装テストは実弾兵器しかすんでいないのに、エンジンにいたってはテストすらしていない状況がそれを物語っている。ほとんどぶっつけ本番なのだ。
そんな状態でこの矢矧は、『ヤマト』とともに地球を救う守護神となるのか。はたまた当時の矢矧と同じく無駄死にし、靖国に還るのか。そもそもその靖国があるのか。
「そのすべては神のみぞ知る……ってか……」
でも――――――やるっきゃない。
やるしかないのだ。今更どうしようとも、これしか方法がない。
先祖が指揮した200年も前の艦の名を引き継いだこの艦を、子孫の自分が再び指揮を執る。フネとして、おそらく究極の進化を遂げたであろうこのフネを…………。
「『矢矧』よ…………」
――――――先祖の時と同じく、よろしく頼むぜ。