銀魂長編

□銀魂長編/5
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「…はァ〜。……………ったく…」


俺は怠い足取りで、先程歩いていたかぶき町の道を歩いていた。


「……なんだったんだ、あの野郎は…」





__結局あの後、あの眼鏡の質問には答えずに…、否。答えられずに席を立った俺は、足早に店を後にした。


質問の意図が解らなかった。…ってのもあるし、


もうあまりコイツとは関わりたくないってのも、まァ、あったのだろう。










ーーー『旦那、孔雀姫の“華陀”さんって…ご存知ですか?』


ーーー『“かだ”ァ?…聞いたこともねーよ、んな大層な名前の奴』







早くその場を立ち去りたかったんだと思う。


テキトーな返事を返した後、無理矢理話を断ち切った俺は、勘定を済ませ店を出た。


奴は引き止めてはこなかったが、おおよそ「あらら(笑)」みたいな顔をしていたんだと思う。


つっても笑ってるだけだと思うけど。多分。


つーか、普通初対面の奴に人の名前を問う奴がいますか?


この人捜してるんですけど知りませんか、的なノリだったらまだしもよ。


会って1時間も経ってない。
その上性別すらわかってない相手からの質問を易々受け入れるような人間じゃあありませんよ俺ァ。


いや多分俺以外の人でもそうなんだろうけどね。











「……………」




……ホントに、




なんだったんだろうな。










考えながら、ふと、歩みを止めた。


先程より、辺りが妙に騒がしい。


どうやら黙々と歩いているうちに、ネオン街にたどり着いてしまっていたらしい。


日がさしている時間帯に『ネオン街』というのも可笑しな話だが。


いかがわしい店が数多く並び、まだ昼間だというのに、そこら中で黄色い声が飛び交っている。





「……あり、そんな歩いたか?」


とはいえ俺もほぼ毎日徘徊しているような場所だったから、相変わらずの景色を、特に気にも止めなかった。


再び歩み始めようと一歩踏み出した時、











「___おーい、銀さん!」










聞き慣れた知り合いの声が、俺を呼んだ。


『銀さん』。ここらに住む奴らは大体、俺のことを決まってその愛称で呼ぶ。


声をかけた主が後ろにいたため、俺は振り返り、その相手の方を向き、返事をするべく口を開いた。










「……よォ、長谷川さん。ま〜た昼間っから金儲けかィ?」





















「変な奴ぅ?」








俺の隣を並んで歩く男、以後長谷川さんの口から、素っ頓狂な声が出た。


「あァ。なんか、妙〜な眼鏡つけた野郎でよ…」


「ふーん」


俺が応えると、そいつは一欠片の興味もなさそうな返事を返してくる。


なさそうっつーか、ないんだろうけど。


「…で、変な人にはついていくなという古き良き母ちゃんの言い伝えを守ってきたワケだと」


「……………ついていくなっつーか…」


ついてこられたってゆーか?





自分で自分に疑問を抱きつつ、まァそんなもんだとうんうん頷いた。


実際アイツが俺に話しかけなければ、今この場でこの話題を入れることはなかっただろうし。


……俺が虚しい気持ちになることもなかっただろうし。


「? 銀さん、なんか今日暗くねーか?」


「……暗くねーよ。アンタのグラサンが黒ェからそう見えるだけだろ」




自分が心の中で思ったことなのに、落ち込み具合は相手には分かるらしい。


もう…なんか、アレだ。


アイツのことは思い出さないようにしよう。


よし、そうしよう。考えるとなんかへこむ。


唐突に、なんかよくわからない決意を示した俺であった。





「…で?長谷川さん」


「あ?」


今の話から内容を変えるべく、別の話を持ち出す。


「今日もいつもの通り、こんな時間からこんな町うろついてるようだけよ」


「おう」


「なんか収穫はあったのかい?」


俺はいつもの気だるげな口調で、長谷川さんに問い掛けた。


『収穫』、…というのはまァ、要するに金のことである。


いつも就職就職言ってる奴なだけあって、会う度に何かしらのバイトを掛け持ちしてることも多いので、最近は少し羽振りがいいらしい。   


今日はダンボールの一枚も持っていない様子だったので、路上生活から少しはマシなようになったのだと思うが…。


マダオオーラがまだ消えきってないけど。


ぶっちゃけ、今日も上手くやっていけてんのかどうかを確認するための質問のようなものだった。


すると、奴はニヤリと口角を上げ、なにやら得意気に話し始めた。


「それがよ、銀さん。最近またい〜い博打場を見つけたんだよ」


「博打ィ?アンタも懲りねーな。今までに幾ら財布の中身飛んでったよ」


一瞬興味を持ったが、直ぐに呆れてしまうような内容だった。


だが、相手は「いやいやいや」と話を続ける。


「今回のはホント、当たるらしいんだって。俺もまだ行ったことこそねーが、かなりの評判だぜ?」


……なんか目が輝いてる気がする(グラサンかけてるけど)が、黙っておいた。


「しかも、結構デケーのよ。博打の種類もいっぱいあるみたいだし、あんまそういうとこねーだろ?ここらへん」





……なにやら意気揚々としているが、何故だか俺はあまり乗り気になれない。


多分、これまでの経験を振り返ってのことを考えているんだと思う。


今までこのグラサンに何かしら誘われて上手くいったことが、出会ってこの方一度もない気がするのだ。


……あ、一度もない。


「………悪いが、俺はアンタの誘いに乗って散々な目に合うのはもう御免…」

「あ、ホラ!あの店だぜ銀さん!」


人の話を聞け!





…アレ!?なんかデジャヴ!





何か変なものを感じつつ、長谷川さんが(俺を無視して)指差した方向を見た。


そこには、確かにここらにはないような、煌びやかな建物が一つ。


何階建てかになったような形をして、博打場とは思えないような大層な門を構え、その門へ上がる為の階段を支えるのは石造りの塀。


反対に、あァここは博打場なんだな。と思わせるようなデカい看板をぶら下げた、まるで一つの城のような店。


その派手な看板には、

『カジノ えどべがす』

と妙に達筆に書かれており、その周りには小判の絵が描かれていて、いかにもな高級感が溢れ出ていた。





「……ここが?…デケーな」


「だろ?」





見なくてもわかる。長谷川さんは今きっとドヤ顔をかましていると思う。


……………。


…だが、まァ…、


ちょっと行ってみたい気も…


しなくもなくもない。


アレ?結局どっちだ?





「どうする、銀さん」





俺が迷っていることを察したのか、長谷川さんが問い掛けてくる。


行くか行かないかではなく、『どうする』と問い掛けてくるところがまた腹立たしい。










………つーか、


……………つーかよォォ










「こんなとこ…連れて来られたら行きたくなんのは当たりめーだろうが」


「流石!そうこなくっちゃな」










結局、


まんまと乗せられるオチでした。























銀魂長編/5【提案しました。】





____.
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