◆・短・◆
□・未来の話・
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たとえば。とか、いつかは。とか。
そんな架空の未来の話を頭に浮かべても、口に出したとしても。
意味が無い事は、知っている。
期待をすれば。
未来を描けば。
今ここに居る自分が保守的になってしまうと思った。
[自分]を大事にしてしまうと思った。
だからたとえ話も、架空の話も好きでは無かった。
……違うな。
[自分]に希望を持つ事を、拒絶していたんだ、俺は。
明るい明日なんて望んでいない。今、この場所で必要とされている自分の一部を発揮する事だけが存在理由だと思いたかった。
未来を、求めてはいけないと。
ずっと、思っているんだ。
「先生ってさ、恋人とかいねーの?」
任務から帰る道すがら、少し前を歩くナルトはいつもの明るい笑顔をこちらに向けて問いかけて来た。
サスケとサクラはもう少し前方を並んで歩いていて、サクラが必死にサスケに話し掛けているのが見える。
「突然、なによ」
いつもならサスケとサクラを二人きりにはさせまいと妨害しそうなナルトなのに、今日に限っては自分なんかに話し掛けてきた。
幸い妙な気配も感じないから会話位構わないが、その内容はあまり好きな話ではなさそうで。
カカシは面倒臭そうな表情でナルトを見た。
「だって先生も、もういい歳じゃん?恋人くれぇいねーと寂しいってばよ!」
余計なお世話だ。
その一言に限る。
「そーね…ま、そのうちネ」
「て、事は今はいねーんだな?好きな女の人もいねーの?かーっ!本当寂しい人生だってばよ!」
「うるさいよお前、俺の勝手でしょ」
自分が恋愛をしている時は同志が欲しくなるものなのか、そんな花が舞うような恋バナなんて興味が無い。
ならば、何故取り憑かれたように恋愛話の本を読み更けているのかと聞かれれば、それは自分に関わりの無い永久に縁の無い物語として楽しいからだ。
現実問題にそれが己の身に降りかかるとすれば、きっと一番最初に投げ出すのは自分だろう。
誰かが脳内で想像した愛の話。
それを夢中で読んでいられるのはなんだか矛盾しているような気もするが、何処かで自分には無関係な世界だからこそ楽しんでいられる安心感がある。
求めてはいけないものを、必死で求めてる様を傍観しているだけだからこそ、楽しい。
自分さえ、交わらなければ。
「じゃあさ、じゃあさ!先生に恋人が出来たら絶対俺に教えてくれってばよ!」
こっちの気持ちなど御構い無しにナルトは期待を込めた表情で笑顔を振り撒きながらそんな事を言う。
なにがそんなに楽しいのか、そんなに同志が欲しいものなのか。
「もし出来たとしてもお前には絶対言わないな」
「えーッ!?なんでだよ!」
溜息を零しながら呟くと、不満そうに顔を膨れさせたナルトが服を引っ張って抗議してくる。
なんでか、と言うか言う機会など訪れないからだ。
なんて、子供にそんな本音を口にした所で何かを察してくれるはずが無いからよくありそうな言い訳でも零しておこう。
「皆に言いふらしそうだからお前。俺はコッソリ恋愛するのが好きなんだよね」
「ははーん…先生ムッツリスケベだな?てか、別にコソコソ恋愛する必要なんてねーんだし、皆に祝って貰えばいいじゃん」
「あのね…俺の話はいいよ。それよりお前はいいの?サスケとサクラ二人きりにさせちゃって」
気が合わないというのは違う気がするが、考え方や捉え方が余りに違い過ぎる二人で話をしていてもそれは無駄だと思う。
なんせ、自分はそれを求めてはいないから。
「んーーあのさ!俺ってば、先生に早くいい相手見つけて結婚して欲しいんだってばよ!」
人に話し掛けているくせに、こちらの話しは聞く気がないらしいナルトはいきなりそんな事を口にしてニカッと微笑んでくる。
なんだかねぇ……。
「そんなにお前に心配されるとなんか不安になってくるじゃないの。そんなに寂しそうに見えるか?」
「違うんだって!俺さ、夢があるんだってばよ!」
「夢?」
ナルトは照れ臭そうに、でも楽しそうにはにかみながら言った。
「先生の子供は俺が担当するんだ!ナルト班の一員として立派な忍者にしてみせるってばよ!」
ナルトの言葉に、カカシは目を見開いた。
未来の話は好きではないし、恋愛話に自分が含まれるのも好まない。
だけど、今の台詞は。
ちょっと、嬉しかった事実。
自分とは違って明るい未来の話が似合う子供達。
その眼差しに影を落とさないように守って行くのが、俺の今の使命なのだろう。
そう望むように、彼も自分の未来を望んでくれているのか。
そう、願ってもいいのか。
「……嬉しい事言ってくれるじゃないの、ナルト」
「へへっ、だからさ子供は絶対男にしてくれってばよ!女の子じゃどうしていいか俺わかんないからさ」
「じゃあ女の子だったらサクラ班に入れてあげる!その代わりビシビシしごいちゃうんだから」
「サクラ班はまだいいが、ナルト班は絶対やめた方がいいと思うぜ。あんたのガキが可哀想だ」
いつの間にか会話を聞いていたらしいサクラとサスケも混ざってきた。
「なんだとコラ、サスケェ!てめぇみてーな愛想の無い奴は絶対生徒に好かれねーからな!」
「はっ、マヌケなウスラトンカチの教師に指導される方がよっぽど可哀想だろ」
「サスケ君は憧れの先生になっちゃうかもしれないわよねぇ」
里まで帰る道程。
いつも明るい声が響いていてふざけたり喧嘩したり、笑ったり。
この若い忍達に、自分のような闇を背負わせないように。
いつまでも幸せな未来の話が出来る世界に。
そう願う想いはさもすれば、自分が一番明るい未来を期待しているという事ではないのか。
まいったね……
結局、自分の事を何も分かっていないのは自分だ。
いつか、そんな日が来るだろうか。
たとえば、そんな日が来たら。
頭に浮かぶ言葉達は、自分が拒絶しつづけたあの言葉。
自分を取り巻く、未来の話。
終
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