月に寄り添う太陽

□新しい家族
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「瑠依、新しい家族ができたわよ!」

嬉々として私に話かけてきた母親の隣には、見知らぬ男の子。
少年の、刃物のように細く鋭利な視線は子供ながらに恐怖を覚え、なぜこんな子を連れてきたのだと心のうちで嘆いたのを私はよく覚えている。
それも、今にしてみれば……懐かしい、思い出に過ぎない。





母親が少年を連れてきたのは、ちょうど私が幼稚園を卒園したころだった。
とある孤児院の院長と母親が友人で、そのツテで引き取ったらしい。

話によれば、少年は両親とともに車で走行中交通事故にあったそうだ。
対向車線の車が飛び出してきたらしい。
猛スピードで走ってきた車と正面衝突し、前の座席にいた両親は即死、後部座席にいた少年はシートベルトのおかげで一命をとりとめた。
意識を失わず、事故当時自分の名前を救急隊員に告げられるほどに、少年は奇跡的に大きな怪我をしていなかった。


そう、少年は意識を失わなかった。
事故に遭い、すぐに少年は痛みをこらえながら呼んだ。両親の名を。
助けて……そう叫びながら、少年は前の座席にいる両親を見た。凄惨な姿に成り果てた、両親の姿を。


確かに少年は、怪我を負っていなかった。
しかしその代り、心に大きな怪我を負った。





本来、心の傷が癒えるまで世話をするのがその孤児院の方針らしいのだが、母親は野次馬根性丸出しでその少年にいたく同情し、私がその子の親となる!と友人に無理を言って少年を引き取ったらしい。

母親は以前その孤児院の仕事を長く手伝っていたこともあり、また少年自身も難色をしめさなかったため(むしろ申し出に首を縦に振ったらしい)、院長もたまに孤児院へ顔を出させることを条件に許可した……のだが。


少年にとってはいい迷惑だっただろうと、今にして時々思う。心の中でもっと整理する時間がほしかったはずだろうに、その暇もなく新しい家族に迎えられたのだから。



……まぁ、私がそんな彼の心情をある程度察するようになれたのは、小学生になってからなんだけれども。

あの出来事がなければ、今でも私は彼の気持ちなど考えず、ひたすらに嫌悪し、恐怖していたに違いない。
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