etc

□【仏英】半熟お兄さん【全年齢対象】
1ページ/2ページ



金色のまつげの下の青く澄んだ瞳は、デスクトップを捉えて離さなかった。

シルクのシャツに身を包んだフランスは、髪を後ろに結わいている。
時折首を傾げては、指先で淡々とトラックパッドをタップして行く作業に戻っている。

「おい、フランス」

背後から怒気を孕んだ声がかかっても、フランスは気付かない。

「さっきから何やってんだよ。音漏れてるぞ」

声の主の指摘通り、フランスのイヤホンからは、軽快なBGMと、人の話し声が漏れていた。

「コレ?日本から借りた『弟育成ゲーム』だよ。」

イギリスがソファから立ち上がると同時に、フランスはイヤホンの端子を引き抜く。
フランスはイスを回転させて振り向き、イギリスにゲームのケースを寄越してきた。

「おとうと・・育成?なんだそりゃ」

パッケージには、幼い弟らしきキャラクターのスチルがいくつか載せられていた。
イギリスは眉毛をぴくりと動かして、フランスの方へ歩み寄る。

「簡単に言うと、かっわいい〜弟クンと交流を深めて仲良くなっちゃうゲーム。」

百聞は一見に如かず、という諺の通り、イギリスはパソコンの画面を覗き込む。
いぶかしげに、首を傾げながら。

「これって、もしかして『心は少し汚れる』類のゲームか?」

スピーカーから、『お兄ちゃん、おれのおもちゃ返して』という男児の声が聞こえた。
続いて、パソコンの画面に選択肢が現れた。

[  返す  ]
[ 逃亡する ]
[頭をなでる]

「イギリス、好きなの選んでみてよ」

「お、俺?じゃあ・・」

イギリスはフランスの背後からおずおずと手を伸ばし、[頭をなでる]を選択した。

『やっ、なんだよ・・やめろよ、兄ちゃん』

画面の中の少年は照れくさそうに笑っている。
イギリスの顔には、喜びとも悲しみともつかない複雑な表情が浮かんでいた。

イギリスはまごうことなく、幼児期のアメリカのことを思い出している。
フランスは口を引きつらせた。

「お前、向こう行ってた方がいいんじゃないの」

「ああ、そのようだな・・。」

イギリスは青ざめながらよろよろとソファーに戻り、そこに腰掛けた。

紅茶を飲むと、いくらか落ち着きを取り戻したようだった。

「ねえねえイギリス」

「何だよ」

フランスは、パソコンを休止状態にした。

「お前にも、あれくらい小さくて可愛い時代あったよな」

「・・・そんな昔のこと、もう覚えてねーよ」

イギリスは、軍服の裾を握りしめてそっぽを向いた。

それを見てフランスは、ニヤリと笑う。

「お前、今日一日俺のことお兄ちゃんって呼べ。」

「はあ!?」

なんで俺がそんなこと・・とイギリスが騒ぐので、フランスは自分もまた、何でも一つだけイギリスの言うことを聞くという条件を付けた。

フランスは、イギリスの隣に腰掛けている。

「じゃあ、早速お兄さんのこと呼んでみろよ」

「呼ぶ必要ねえだろーが」

「かわいくねー弟だなー。お兄さん寂しいなー」

「やっ、やめろケツ触んな!」

「弟がツレなくて寂しい気持ち、誰よりも知ってるだろ?
ほら、このケースに書いてあるセリフ、読んでみろよ」

イギリスは舌打ちして、頭をかいた。

― コイツのことだから、簡単には諦めそうにないし。

イギリスは、小さく息を吸った。


「お兄ちゃん、おれずっと、お兄ちゃんのことが・・」


フランスは瞬きして、頬を緩ませた。

「イイねえ!もっと言ってみろよ!」

「もういいだろ!今更だがすげー変態っぽいぞお前!」

イギリスは顔を手で覆い、席を立った。

「おい、待ってよイギリス!」

「なんだよ!ちゃんと言ったろ」

「ダメ!もう一回!」

フランスはイギリスの腰を掴み、逃げられないようにしている。
イギリスはその手を振り払った。

「しつけえよ。お、お兄ちゃん。よし!これでいいな!」

「お兄さん急にお前が可愛く思えて来たよ!」

フランスは、目を輝かせている。

「はあ!?」

「ねだるようにもう一回!」

フランスはイギリスを抱きしめて、再度逃げられないようにした。

「ねっ、ねだるって何をだよ!」

イギリスは必死で何とかフランスから逃れようとするが、上手く振りほどけない。

「細かい設定は任せるから!早くやってみろよー」

「は、放せよお兄ちゃん」

「お前に言われると逆に放して欲しくないように聞こえるな」

「ばーか!別にお前に抱きつかれても嬉しくなんてねーんだよ」

イギリスの反抗的な態度は、しばしばフランス人の血を目覚めさせる。

「その割に、抵抗の仕方甘いんじゃないの?イギリスちゃん」

「あっ、ばか・・耳のそばで喋るな!」

フランスは空いている手でイギリスの髪を撫でた。

「イギリス・・もっと喋って欲しいのか?」

「だからっ、嫌だって言ってんだろ・・っ」

フランスに後ろから抱きかかえられたまま、イギリスは床に膝をつき、息を吐いた。

「お兄さん、ちょっといじめ過ぎたかな」

フランスは笑いながら、手慣れた動作でイギリスの手の甲にキスをした。

「許さねえ」

「お?ヤるか?」

イギリスは上機嫌のフランスの胸ぐらを掴み、耳元で囁いた。

「『世界の』お兄さんなんか辞めて俺の専属になれ」

フランスは一瞬、言葉を失った。

「へっ?」

「何でもねえよ」

イギリスは耳を赤く染め、フランスから目を反らしている。

「今の・・・今のがイギリスの、お願いだよな」

「冗談に決まってんだろ」

フランスは、真顔になってイギリスを見つめた。

「お兄さんはみんなのものだから」

「はっ」とイギリスは笑ったが、口元は皮肉っぽく引きつっている。

上司の意向とか、もし人間だったら、とか。

国である、ということには、必ず不自由が伴う。
望まない争いが生じたり、何にも執着できなかったり。

「そういうの、聞き飽きたんだよ。」

フランスは、返す言葉が見付からず、イギリスの手を握った。
イギリスも、相手の心の内が痛いほど解ったから、ただその手を握り返した。

- END -
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ