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□【仏英】半熟お兄さん【全年齢対象】
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金色のまつげの下の青く澄んだ瞳は、デスクトップを捉えて離さなかった。
シルクのシャツに身を包んだフランスは、髪を後ろに結わいている。
時折首を傾げては、指先で淡々とトラックパッドをタップして行く作業に戻っている。
「おい、フランス」
背後から怒気を孕んだ声がかかっても、フランスは気付かない。
「さっきから何やってんだよ。音漏れてるぞ」
声の主の指摘通り、フランスのイヤホンからは、軽快なBGMと、人の話し声が漏れていた。
「コレ?日本から借りた『弟育成ゲーム』だよ。」
イギリスがソファから立ち上がると同時に、フランスはイヤホンの端子を引き抜く。
フランスはイスを回転させて振り向き、イギリスにゲームのケースを寄越してきた。
「おとうと・・育成?なんだそりゃ」
パッケージには、幼い弟らしきキャラクターのスチルがいくつか載せられていた。
イギリスは眉毛をぴくりと動かして、フランスの方へ歩み寄る。
「簡単に言うと、かっわいい〜弟クンと交流を深めて仲良くなっちゃうゲーム。」
百聞は一見に如かず、という諺の通り、イギリスはパソコンの画面を覗き込む。
いぶかしげに、首を傾げながら。
「これって、もしかして『心は少し汚れる』類のゲームか?」
スピーカーから、『お兄ちゃん、おれのおもちゃ返して』という男児の声が聞こえた。
続いて、パソコンの画面に選択肢が現れた。
[ 返す ]
[ 逃亡する ]
[頭をなでる]
「イギリス、好きなの選んでみてよ」
「お、俺?じゃあ・・」
イギリスはフランスの背後からおずおずと手を伸ばし、[頭をなでる]を選択した。
『やっ、なんだよ・・やめろよ、兄ちゃん』
画面の中の少年は照れくさそうに笑っている。
イギリスの顔には、喜びとも悲しみともつかない複雑な表情が浮かんでいた。
イギリスはまごうことなく、幼児期のアメリカのことを思い出している。
フランスは口を引きつらせた。
「お前、向こう行ってた方がいいんじゃないの」
「ああ、そのようだな・・。」
イギリスは青ざめながらよろよろとソファーに戻り、そこに腰掛けた。
紅茶を飲むと、いくらか落ち着きを取り戻したようだった。
「ねえねえイギリス」
「何だよ」
フランスは、パソコンを休止状態にした。
「お前にも、あれくらい小さくて可愛い時代あったよな」
「・・・そんな昔のこと、もう覚えてねーよ」
イギリスは、軍服の裾を握りしめてそっぽを向いた。
それを見てフランスは、ニヤリと笑う。
「お前、今日一日俺のことお兄ちゃんって呼べ。」
「はあ!?」
なんで俺がそんなこと・・とイギリスが騒ぐので、フランスは自分もまた、何でも一つだけイギリスの言うことを聞くという条件を付けた。
フランスは、イギリスの隣に腰掛けている。
「じゃあ、早速お兄さんのこと呼んでみろよ」
「呼ぶ必要ねえだろーが」
「かわいくねー弟だなー。お兄さん寂しいなー」
「やっ、やめろケツ触んな!」
「弟がツレなくて寂しい気持ち、誰よりも知ってるだろ?
ほら、このケースに書いてあるセリフ、読んでみろよ」
イギリスは舌打ちして、頭をかいた。
― コイツのことだから、簡単には諦めそうにないし。
イギリスは、小さく息を吸った。
「お兄ちゃん、おれずっと、お兄ちゃんのことが・・」
フランスは瞬きして、頬を緩ませた。
「イイねえ!もっと言ってみろよ!」
「もういいだろ!今更だがすげー変態っぽいぞお前!」
イギリスは顔を手で覆い、席を立った。
「おい、待ってよイギリス!」
「なんだよ!ちゃんと言ったろ」
「ダメ!もう一回!」
フランスはイギリスの腰を掴み、逃げられないようにしている。
イギリスはその手を振り払った。
「しつけえよ。お、お兄ちゃん。よし!これでいいな!」
「お兄さん急にお前が可愛く思えて来たよ!」
フランスは、目を輝かせている。
「はあ!?」
「ねだるようにもう一回!」
フランスはイギリスを抱きしめて、再度逃げられないようにした。
「ねっ、ねだるって何をだよ!」
イギリスは必死で何とかフランスから逃れようとするが、上手く振りほどけない。
「細かい設定は任せるから!早くやってみろよー」
「は、放せよお兄ちゃん」
「お前に言われると逆に放して欲しくないように聞こえるな」
「ばーか!別にお前に抱きつかれても嬉しくなんてねーんだよ」
イギリスの反抗的な態度は、しばしばフランス人の血を目覚めさせる。
「その割に、抵抗の仕方甘いんじゃないの?イギリスちゃん」
「あっ、ばか・・耳のそばで喋るな!」
フランスは空いている手でイギリスの髪を撫でた。
「イギリス・・もっと喋って欲しいのか?」
「だからっ、嫌だって言ってんだろ・・っ」
フランスに後ろから抱きかかえられたまま、イギリスは床に膝をつき、息を吐いた。
「お兄さん、ちょっといじめ過ぎたかな」
フランスは笑いながら、手慣れた動作でイギリスの手の甲にキスをした。
「許さねえ」
「お?ヤるか?」
イギリスは上機嫌のフランスの胸ぐらを掴み、耳元で囁いた。
「『世界の』お兄さんなんか辞めて俺の専属になれ」
フランスは一瞬、言葉を失った。
「へっ?」
「何でもねえよ」
イギリスは耳を赤く染め、フランスから目を反らしている。
「今の・・・今のがイギリスの、お願いだよな」
「冗談に決まってんだろ」
フランスは、真顔になってイギリスを見つめた。
「お兄さんはみんなのものだから」
「はっ」とイギリスは笑ったが、口元は皮肉っぽく引きつっている。
上司の意向とか、もし人間だったら、とか。
国である、ということには、必ず不自由が伴う。
望まない争いが生じたり、何にも執着できなかったり。
「そういうの、聞き飽きたんだよ。」
フランスは、返す言葉が見付からず、イギリスの手を握った。
イギリスも、相手の心の内が痛いほど解ったから、ただその手を握り返した。
- END -