□【東西】可愛い人
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「兄さん、朝食の用意ができたぞ」

俺が部屋まで呼びにいったとき、兄さんはまだベッドの中だった。

昨夜は兄さんの帰りが遅かった。
会議が長引いた上、上司と飲んでいたらしい。
兄さんが寝たのは、明け方近かった。

もうしばらく寝かせてやりたかったが、今日も昼から出かけなければならない。

「兄さん」

「グー」

布団を抱いて、爆睡している。

「起きろおおおおお」

俺はとっさに、いつものプロレス技を仕掛けた。

「のわっ、る、ルッツ!おはよう!」

「やっと起きたか・・。朝ごはん、できてるぞ」

「おう!ありがとな!」

兄さんは布団に腰掛けて、軽くストレッチをしている。

兄さんの筋肉質な白い腹が見えて、俺は思わず目を反らした。

「兄さん・・いくぞ」

「待てよルッツ。ことり踏みそうだぞ。」

「ピッ」

床にいた小鳥は、焦った様子で兄さんの肩に飛び乗った。

兄さんは、肩の上の小鳥を愛おしそうに撫でている。

「・・あ?どうかしたかルッツ」

呼びかけられて初めて、自分が兄さんを凝視していたことに気付いた。

「そんなに小鳥が可愛いのか?」

無意識の内に、声に出して問いかけていた。

「いきなり何だよ・・ま、俺にとってはルッツの方が可愛いぜ!」

俺は兄さんの肩を掴んだ。

「ケセセ!殴るなって!やめ・・あれ」

何かしてやりたくなったが、本来の目的を思い出して、再び歩き出した。

「飯だぞ」

「お・・おう」

微笑んで振り向くと、兄さんはどこか拍子抜けした様子だった。

「兄さん」

「何だ、ルッツ」

「俺に可愛いという形容詞はふさわしくないと思うが」

兄さんはスリッパを履いてから、こちらを見た。

「兄さんは、可愛いな」

「なっ・・そ、そうか?」

いい大人が小鳥を頭にのせて、はたからみたらちょっと馬鹿みたいだ。
それも、良いところだと思う。

食卓まで残り3メートル。

兄さんの顔が少し赤いようだが、恐らく二日酔いのせいだろう。

END.
(次ページ、あとがきです。)
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