□おやすみ
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仕事上の困難な問題について考え続け、頭を痛めていたある日の夜。
寝室に、見慣れた人影があった。
「うおーーールッツーーーー!!!」
部屋に入るなり突然、正面から鮮やかなスープレックス。
宙に浮く感覚の直後には、身体がガッチリと固められていた。すぐに技を解き、反撃に転じる。
交互に技をかけ合い、最終的に一瞬の隙をついて相手にヘッドロックをかけた。
「何のつもりだ、兄さん」
「別に何ってこともないけどよ。暇つぶしだ!」
無茶苦茶にいろいろな技をかけ合ったためか、お互い息が切れている。
楽しそうに笑う兄さんの頭部は、俺の腕によって拘束されている。しめつける度、銀色の髪が腕を撫でた。
兄さんは小さく咳をしたため、すぐに解放した。
「そろそろ寝るぞ、兄さん」
「ああ、おやすみ。ルッツ」
兄さんは立ち上がり、歩き出した。
それで、よかったはずだった。
「おい、兄さん」
「ん?何だよー…」
兄さんが真顔でこちらを凝視する。
俺は一瞬ためらった後、口を開いた。
「それだけか?」
今夜はプロレス技をかけるだけでは、満足できなそうだったのだ。
兄さんは、すぐに俺が腰掛けているベッドに戻ってきた。
「さっきので疲れたんじゃねえのかよ」
兄さんは軽く俺の髪を撫でる。
「ああ。でも、少し…その」
赤い眼が俺を捉えた。強張った爪先が床を圧迫する。
「もう少しそばにいてくれないか。最近、冷えるしな。」
兄さんは、ふっと笑って横になった。
「ほら、ちゃんと布団かけろよ」
掛け布団を俺の肩まで被せてから、兄さんもその中に入る。
「ずっとそばにいてやるから。安心しろよな」
「ああ。兄さん、ありがとう」
「いいってことよ。おやすみ、ルッツ。」
「おやすみ、兄さん。」
握りしめた兄さんの手は俺より少し冷たくて、それでもずっと温かかった。

- 完 -
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