□【露米】あいさつ【全年齢】
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※米視点。



会議が終わった後にひとりで廊下を歩いていた俺は、ハンバーガーを食べるのに必死で、彼がすぐ後ろにいたことに気付かなかった。

「アメリカくん。」

振り向いたら、ロシアがいた。
笑顔の彼を見ていると、どうにも、いやな気持ちになるんだ。

俺はハンバーガーを左手にもちかえた。
右手でポケットに入っていた銃を握って、相手に銃口を向けた。

しかし、顔色一つ変えずに楽しげにこちらの様子をうかがうロシアを見ていると、だんだん馬鹿らしくなってきた。

「何か用でもあるのかい?」

銃を仕舞いながら、一応訊いてみる。

ロシアが俺のあとをつけてくるなんて、いやがらせとしか思えなかった。

「んー、別に。用はないよ」

ほらね。ただ俺の足を引っ張りたいだけなんだぞ。
ロシアは、満面の笑みを浮かべていた。

パッと見ただけでは悪意は感じとれないが、腹の底では何を考えているのか分からないから、決して警戒を解いてはならない。

これは長年培ってきたカンというか、防衛本能だ。

しかし、こうぴったり付いてこられては、思うように身動きがとれない。

「用がないなら、付いてこないでくれよ。」

「べつに、君に付いていってるわけじゃないよ。」

ロシアは、涼しい顔で受け答えた。

「僕も向こうに行きたいんだ。アメリカくん、ちょっと自意識過剰なんじゃない?」

俺はロシアを3秒ほど睨んだ後、ハンバーガーをかじりながら無言で歩き出した。

「アメリカくん。」

今度はなんだよ、と苛立ちながら答えた瞬間。

ロシアが俺の左腕をつかんで後ろを向かせ、顔を近付けてきた。

目が笑っていなかったため、生命の危機を感じた俺は反射的に右手で殴ろうとしたが、あっさり避けられた。

「君、何のつもりだい!?」

「あいさつだよ。」

「はあ?」

「ロシア式あいさつ。知らない?」

「知らない」

突然のことに驚いたのか、心臓の動悸が激しくなっていた。

この程度のことで驚くなんて、ヒーローらしくないぞ。


ロシアを無視して歩き出そうとしたら、今度は壁に押し付けられた。


背中を強く打ち付けたのと同時に、ロシアが俺にキスしてきた。


「ん・・・っ!?」


唇を押し当てるような、強引なやり方で呼吸を妨げられた。


蹴りを入れようとした足も片手で受け止められ、ロシアは再度俺にキスしてきた。


「・・・大人しくして」


舌を吸われて、不覚にも一瞬力が抜けてしまった。

そのとき、ロシアの手が壁と腰
の間に割り込んできた。

その姿勢に、強い違和感を覚えた。


まるで、抱きしめられているみたいじゃないか。

気持ち悪いんだぞ。


耳元で、アメリカくん感じてるの?という声が聞こえた。

俺は全力でロシアにタックルし、窮地を逃れることに成功した。


「こんな気持ち悪いあいさつ、二度としないでくれよ。今度やったら、撃つからな」

俺は拳銃を持って、ロシアを見た。

ロシアは、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべていた。


なぜ君がそんな顔をするんだい?

殺り合うのにも、もう随分慣れただろう?


「アメリカくん、またね」

そういって手を振るロシアは、どこか物足りなさそうに笑っていた。

俺は、立ち止まって少し考えた。


やっぱりヒーローとして、あんな危険なやつを野放しにしておくわけにはいかないんだぞ。


「ロシア」


窓から、涼しい風が吹いてくる。

俺は、ロシアのマフラーを引っ張って自分の方によせ、キスをした。

ロシアは、大きく目を見開いている。

相手が抵抗しないので、唇の隙間から舌を入れてみた。

ロシアは何か訴えるような目をした後に地面を見つめ、終始目をつぶることはなかった。

どんなに激しく舌を絡めても、抵抗はなかった。

それどころか、懸命に応じているかのようにすら思えた。


ささやかな復讐が終わり、口元をぬぐって様子をみると、ロシアの顔が普段より赤くなっていた。

屈辱に耐えているのか、酸素が足りていないのか。


「アメリカくん」

ロシアは、涙目になりながらこちらを見ている。

「何これ」

「あいさつだぞ。」

「したくないんじゃなかったの」

「君が嫌がると思ったから、したまでさ。」

「僕もアメリカくんが嫌がるかもしれないと思ったから、あいさつしたんだよ。」


体が離れるときに名残惜しいような気がした。
でも、それはきっと気のせいだ。


微妙な沈黙が流れたあと、ロシアが口を開いた。


「ハンバーガーの味がしたよ」

俺は、少し笑ってしまった。


「ねえ、アメリカくん」

「なんだい」

「ケチャップ付いてるよ。」


どこに、と聞こうとしたら、ロシアはすでに前を歩いていた。


俺は、ハンバーガーを立って食べながらその後ろ姿を見送った。

姿が見えなくなったあとで、離れた場所から「嘘だよー」という声が聞こえた。
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