春
□【春待ち】一時休戦【全年齢】
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― 今日はよく晴れた気持ちの良い日だ。ケンカをする気分じゃないぞ。
外に出てみると、思った通り日差しが暖かかった。
【 一時休戦 】
「珍しいね、君が丸腰で来るなんて」
玄関を開けると、軽装のアメリカが現れた。
ロシアは目を丸くして、少々訝しげに訪問者を観察する。
「たまにはそんな日があってもいいだろ」
アメリカは気にしない風で、ロシアの家に上がりこんだ。
うん、そうかなあ、などと言いながら、ロシアはキッチンに向かった。
「紅茶でいい?」
「うん。お願いするよ」
ロシアは台所で、2つのカップに紅茶を注ぐ。
アメリカは椅子に腰掛け、タートルネックを着ている休日のロシアをしげしげと眺めていた。
普段の軍服を見慣れているので、新鮮な気持ちがする。
ロシアが机に紅茶を運んだとき、アメリカはロシア語の絵本をパラパラとめくっていた。
「それ、チェ○ラーシカっていうんだよ。知ってる?」
聞かれたアメリカは、さっそく紅茶を飲んでいた。
「アメリカ君、おいし?」
「まあ、悪くはないね。うちのコーヒーが一番おいしいんだぞ」
「ふふ、はいはい」
普段よりも柔らかく笑うロシアに、アメリカは戸惑った。
アメリカは、ロシアの笑顔をもっと見たくなった。
「ロシア、君にお土産があるぞ!」
机にのせられたのは、水色と赤の、マーブル模様のチューインガムだった。
アメリカは、自信に満ちた顔で微笑んでいる。
「ワア、すごい色・・。ありがとう、アメリカ君。」
ロシアがガムを指で弄んでいる内に、アメリカはカップを手に取り、紅茶を飲み干した。
「あ、それ僕の・・」
アメリカは紅茶を盛大に吹き出した。
「わ、アメリカ君、汚いよ・・」
「誰にでも間違いはあるんだぞ!」
「そうだね」
困ったように笑うロシアを見て、アメリカはもっと困らせたくなった。
「ロシア、ゲームをしよう」
「いいけど・・何のゲーム?」
アメリカは机の上に身を乗り出した。
そしてロシアのあごを掴み、自分の方へと顔を引き寄せた。
瞳にお互いの顔を確認できる距離まで、近付く。
どちらからともなく二人は目を閉じて、結局キスをした。
滞りなくゲームは終わった。
そうすることが、自然であったかのように。
「シーユー。紅茶ありがとう」
そう言ってアメリカは、風のように去って行った。
ロシアは満足そうに微笑んでから、空を見つめた。
― 今度会えるときはケンカするのかな。そりゃそうだよね。
ぼくたち、いつもケンカしてるもん。
END.