□【露米】カップルシート【全年齢】
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その日の夜、アメリカとロシアは映画館に居た。
スクリーンには、少し前に公開されたハリウッド映画のクライマックスが映し出されている。
アメリカは用心深く前後左右を見渡して、映画館の係員がいないか確認する。
そして、自分のとなりに座っているロシアの頬に手をかけた。

事の発端は今から3時間前。
ロシアは知人から譲り受けたチケットを持って、全米が泣くとうわさの映画にアメリカを誘った。
アメリカは、無料で映画を見られるならという軽い気持ちで承諾しようとしたが、指定された座席が問題だった。
「カップルシート!?君、何考えてるんだい!」
「仕方ないじゃない。席なんてどこでも同じでしょ」
実際、ロシアは座席のことに関してはそれほど深く考えてはいなかった。
「そ、そんなの・・・恥ずかしくて行けないんだぞ!」
アメリカは頬を染めながら差し出されたチケットをロシアに突き返した。
「ふーん、そっかあ。じゃあ他の人誘おうかな。」
「ええ!」
沈思の後、ロシアは視界の端に日本を捉えた。
「あっ、日本くんだ。日本くー」
遮られたのは、アメリカに腕を掴まれたためだ。
「どうしたの?アメリカくん。」
「日本は、もうその映画見たらしいぞ。し・・仕方ないから俺が一緒に行ってやるよ!だって俺は、ヒーローだからね!」
アメリカはそれらしき理由を得て元気を取り戻し、平生の勢いに任せて親指を立てる。
「うん。行こうアメリカくん」
ロシアは、アメリカを見て柔らかく微笑んだ。

ふたりは映画が上映される10分前に場内に入った。
遅い時間のレイトショーであるにも関わらず、客席は既に半分ほど埋まっている。
指定された席は真ん中の最後列で、左右に他の客は見当たらなかった。
アメリカは座り心地のよさそうなカップルシートを見て、逃げ出したくなった。
「ロシア・・あの、俺」
「なあに、アメリカくん。」
ロシアは先に席に着いて、悠々と上映の時を待っているように見える。
しかし実は、落ち着かない様子のアメリカを楽しげに観察していたのだ。

いがみ合っているロシアと、わざわざ隣り合い座ることはこれまでに経験が無い。
ロシアは何とも思わないのだろうか、などとあれこれ思いを巡らせながら、アメリカも席に着いた。

「わ、アメリカくんの匂い!」
「本当?どんなにおいなんだい」
「アメリカくんのくせに、花みたいな良い匂いだね」
「そいつはきっと柔軟剤だな!・・あっ、ロシア!俺のくせにってどういう意味だよ!」
「べつに大した意味はないよ」

束の間笑い合いながらロシアは、仮想敵国なのにまるで友達みたいだとぼんやり考えていた。
一方アメリカは、ロシアを盗み見る度に高まる自らの胸の鼓動に疑問を感じずにはいられなかった。

他の映画の予告が終わって、本編が始まった。
同時に、ロシアはアメリカにいたずらを仕掛けた。
ジュースを飲み終えて何気なく置かれたアメリカの左手に、自分の右手を重ねたのだ。
ロシアが触れた瞬間にアメリカの手は過敏に反応し、懸命に逃れようとした。
それでもロシアが痛いくらいに握りしめてくるので、アメリカは抗議の目線を送った。
ロシアは、知らん顔でスクリーンを見つめている。
アメリカは抵抗を止めると、ロシアとは別の方向を向いて首を振った。

しかし、そこでロシアへの仕返しを諦めるアメリカではない。
映画が戦闘シーンにさしかかった時、アメリカは空いている手でポップコーンを鷲掴みにして、いきなりロシアの顔に押し付けた。
アメリカが手を離すと、ポップコーンはロシアの膝に落ちた。
ロシアはアメリカに冷たい視線を送ったが、いたずらが成功して浮かれているアメリカはそれに気付かず、笑いをこらえている。
ロシアは小さくため息をつき、膝の上のポップコーンをひとつひとつ拾って箱に戻した。
アメリカは、ロシアの反応が期待したほどでなかったので、さらに作戦を考えた。

ロシアを一番驚かせること。カップルシートに座っている今しか出来ない悪ふざけ。
BGMの音量が大きくなったタイミングを見計らって、アメリカはロシアにキスをした。
ロシアはアメリカを殴ろうと考えたが、悲しげな表情を浮かべる青い目を見て思い止まった。
アメリカが周りの気配をうかがっても、誰かに気付かれそうな様子はない。
「勘違いしないでくれよ」
アメリカはロシアの耳元で小声でそう言った。
抵抗されないことを物足りなく感じたアメリカは、思い切って舌を入れる。
ロシアは嫌がるでもなく、アメリカを抱きしめるようにして歯列をなぞった。
声が出そうになって、アメリカはロシアを押し返した。
ロシアはアメリカの頬にキスをした。
「君もロシアの一部にしてあげる」
アメリカは口の動きだけでファックと言って、ポップコーンを次から次へと咀嚼した。
ロシアは、照れ隠しで勝手にアメリカのジュースを飲んだ。

映画の最後のシーンで、アメリカは声を殺して泣き出した。
ロシアは、その気配を察して無言でハンカチを差し出した。
それから間もなくロシアも泣き出したので、そのハンカチはすぐに返されることになる。

帰り道では、先刻までの気まずい雰囲気も和らいでいた。

「映画、楽しかったんだぞ!さすがアメリカ製!ドゥルッフー!」
「うん、まあまあ面白かったね。」
「じゃあな、ロシア!またチケットが余ってたら付き合ってあげなくもないぞ!」
「ふふ、ありがとう。じゃあねアメリカくん。」
「ああ。じゃあな、ロシア!」

アメリカは別れ際にロシアとキスしたいと思ったが、それは映画が面白かったから興奮しているせいだと考えることにした。
一方ロシアは、アメリカも含めてみんなロシアになればいいのにと考えていた。

END.
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