短編
□青春逃避行
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電車に乗っていると、思う事がある。
それは休日の部活帰り、車窓から見える遠くの空が青い時で。
電車の中は暖房で心地好い温度になっていて、でも小さな窓から差す日が少し眩しくて。
イヤホンから流れる曲に紛れて聞こえてくるガタンゴトンという音を聞いている時。
一番前の車両の、そのまた一番前という事もあって人はほんの二、三人。
心地好い微睡みに負けそうになっていると、自分が降りなければならない駅のホームに入る。
そんな時、思うんだ。
このまま乗っていたら、どうなるんだろう、って。
そんなのは決まってる。
電車は何事も無く進み、次の駅に向かう。
そして、少し遠出をして遊んだ記憶の有る駅を過ぎれば、紙面でしか見た事の無い駅に着く。
其処で降りなくても電車は次の駅に向かって、今度は見た事も聞いた事も無い駅を通って、終着駅で停まるんだ。
それでも思う。このまま乗っていたら、どうなるんだろう、って。
きっとお金が足りなくて困るだろう。
直ぐには帰れなくなるだろう。
最後には結局、親に怒られて、呆れられるんだろう。
世間では今日は休日だ。鞄の中には汗臭くなった部活のユニフォームが入っている。
天気が良くて、制服の肌触りと暖房が心地好い。
イヤホンから流れる曲に紛れて、ドアが閉まる音が聞こえた。
一番前の車両の、そのまた一番前には、自分以外誰も居なくなる。
見慣れた街並みが、流れて行った。
結局は、唯の降り過ごし。
((財布の中にはいくら有っただろうか。なんて、今更現実的になる。))