短編


□ターコイズ
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君を、見付けた―――――。





凍えるような冬の日に、一面に広がる真っ白く冷たい雪の中で、ターコイズの結晶を見付けたんだ。

僕は厚手の茶色いコートに黒いマフラーを首に巻いてそれを見ていた。
指先はもうぴくりとも動かせなくて、温かい口から白い息を吐く事しか出来ないでいた。
ついでに足も動かせなくて、真後ろに聳え立つ大きなクリスマスツリーみたいになっていた。
体中に靴下やサンタ、ベルに星、クッキーにプレゼント。
重いモノをたくさん付けて、ずっと立っていた。

不意に誰かがぶつかって、装飾品の一つが白い雪の中に埋まる。
その誰かは、直ぐに人混みに紛れて消えて行った。

埋まった装飾品は懐中時計。文字盤には筆記体で書かれた読めない外国語。
三本の針は、あの時から止まったまま。

僕は背筋に悪寒が走りそうな程冷えたその金属を拾って、またポケットの中に戻した。

顔を上げると、ターコイズの雪の結晶は溶けて見えなくなっていた。

一瞬だけ見えた輝く君の笑顔。
薄っぺらい人々の笑顔の中で、それはよく映えていた。
見上げる君の頬は、ショウウィンドウに飾られたケーキの上にちょこんと乗っかっている小さいサンタの様で。
白いコートが絡むのは、黒いコート。

君の全ては彼のモノ。

君と僕の視線は決して絡むことはなく、交わす言葉は別れの言葉。
けど、その言葉さえ、今はもう交わせないんだ。

僕は街の中心にある、大きなクリスマスツリーを背に、ゆっくりと歩き出した。



“さようなら”と、誰かが言った。


((翌日には、クリスマスツリーの飾りは綺麗さっぱり失くなっていた。))



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