短編


□独り占め
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クローゼットを開けて、今日着て行く服を選ぶ。
たくさんの時間を費やして決めた服は、果たして自分に合っているのだろうか。
鏡の前に座って、震える手で化粧道具を手に取る。
友達に教えてもらって、今日初めてするのだ。
鏡に映っているのは、いつもと違う自分。
少しは可愛く見えるだろうか。
首にネックレスを下げて、最後に鏡で確認する。
髪を整え、服の裾を軽く引っ張り、鏡の前でくるりと一回転。
しっかりと、細かい所まで入念にチェックをする。

全ては貴方に褒めてもらいたいから。
可愛いと、綺麗だと言ってもらいたいから。

期待と不安を胸に、待ち合わせ場所へ。





遠くに貴方を見つけた。

近付いて名前を呼べば、遠くを見ていた目が私の方を向く。
その瞬間、彼が驚いたように目を見開いた気がした。

貴方はいつも通り恰好良かった。



―――――じゃあ、私は?



彼は黙って私の手を引いて、足早に歩き出す。

期待は絶望に変わる。

やっぱり駄目だったんだ…。
あぁ、恥ずかしい。所詮は私の独り善がり。

どんどん前に進む貴方は、私に背中しか見せてくれなくて、それがより一層私を不安にさせる。





ようやく歩みを止めたのは、彼の家の中。
私は恐る恐る理由を尋ねてみた。
けれど、彼は俯いたまま目も合わせてくれない。
段々と、私の目線も下がっていく。

やがて、か細い声で名前を呼ばれる。
顔を上げれば、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた貴方がいた。



可愛すぎ、誰にも見せたくない。


(今度から、デートは全部家だからな。)



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