短編


□トッポ派の僕とポッキー派の君
1ページ/1ページ


今日がポッキーの日だということを、僕は朝から思い知らされていた。家では鞄にポッキーを二箱入れる姉。道端では友人達にポッキーを配る女子生徒。学校でも、授業の合間の休み時間に生徒達が友人達にポッキーを頬張っていた。
だが、僕のクラスは違う。教室に入れば、ポッキーとは違う細長いお菓子を持っている女子。そこに集うクラスメイトもまた、そのお菓子を持っている。それはポッキーよりも少し太く、最後までチョコたっぷり、というレッテルを張っている、

「ほら、お前にもやるよ、──トッポ。」

そう、僕のクラスでは、今日はトッポの日だ。

「ん、ありがと。」

僕も友人からトッポを一本もらい、早速口に運んだ。うん、美味い。

「11月11日って、別にポッキーじゃなくても良いんだろ?細長けりゃ何でも。」
「うん。良いんじゃない?このクラスはトッポの日みたいだけど。」
「満場一致でトッポだもんな。」
「皆好きだもんね。」

斯く言う僕もその一人だ。ポッキーが嫌いな訳じゃない。どちらかと言えばトッポの方が好きなだけだ。ポッキーが食べたいと思い立って買いに行けば、ついつい隣にあるトッポを手に取ってしまうというほどに。そんな、つい先日あった事を思い出していると始業の鐘が鳴ったので、僕は急いで席に着いた。





放課の時間になっても、ポッキーを食べる女子生徒が居なくなることはない。朝と、それから昼休みにも配っていたのに、よく残っているなと思う。きっと、部活の人にも配るのだろう、と僕は考えながら、真っ直ぐと玄関へ向かった。
僕は何処の部活にも所属していないから、何もせずに家に帰る。理由は面倒臭いから、というのも有るし、特にやりたい部活もなかったからだ。たまに友人から人数合わせとかで参加してくれとか頼まれるけれど、部活をするなら自分の時間で色々と興味のあるものについて調べたり、好きな事をする方が良いと、僕は思う。
そんな事を考える僕は最近、書道に填まっている。だから今日は、家に帰る前に残り少なくなった墨汁を買いに市街地へと行くのだ。登校手段が電車でも自転車でもない僕は、歩いて市街地に向かった。





市街地に着けば、やはり学校帰りの学生が大部分を占めている。勿論、その手にはポッキー。

──僕も、墨汁を買ったら買いに行こうか。……トッポを。
今日は売り切れの心配も無いだろう。絶対に。

それにしても、よくもまあこんなにポッキーが広まったものだ。ある意味感心してしまう。右も左もポッキー。前も後ろもポッキー。ポッキーポッキーポッ…キー…、

「………。」

何となく、目に留まった。春、ひらひらと舞う蝶を見付けたみたいに。道のど真ん中で僕は立ち止まって、目を逸らせない。自分でも、馬鹿みたいだと思う。けど、本当に今、そうなっているんだ。



僕はその少女から目を離せない。周りと同じように、唯ポッキーを食べながら歩いているだけなのに。



その娘が此方に気が付いた瞬間、僕の肩はびくっと跳ね上がった。その娘はポッキーを口にくわえたまま、じーっと僕を見て、───首を傾げた。



…うん。正直に言おう。愛らしい。



お互い目を逸らさないで固まっているこの状況で、僕は暢気にそんな事を考えていた。でも、どうしようかと思案しなければならない。
何故かって、理由は至って簡単。此処が道のど真ん中だからだ。しかもお互い目を逸らそうとしない。
じゃあお前が逸らせよ、んでもってさっさと墨汁とトッポ買って家に帰れよ、という話になるのだが、どうしてかそれが出来ない。と、いう訳で、向こうから目を逸らして、何事も無かったかのようにまた歩き出してくれるのを待っているのだけれども…、

「……。」
「…………。」
「……………。」
「…………………。」

どうしてだろう、目を逸らしてくれないや…!
それ所か、段々此方に近付いているのは気の所為だろうか。いや、気の所為ではなかった。遠くに居たその娘は、僕の目の前で立ち止まって、再度首を傾げた。



…うん、やっぱり可愛らしい。



ってそうじゃない。今目の前に居る少女は、じっと僕を見上げたままだ。身長や顔付き、首を傾げる仕草は子供のようだけれど、制服を着ている。確かこれは、あそこのだった気がするけど…。
表情はあまり変わらない。ぱっちりとした瞳で僕を見つめたまま、口許ではポッキーが揺れている。無表情というよりは、ぼーっとしているような感じだ。結構真面目なのか、スカートは膝丈、きちんと着込んだブレザーに、襟元で結ばれたネクタイ。髪は何も手を加えてられていない色素の薄い自然な薄茶色。肌は正に雪の様で、折れそうな程に細い。日に焼けない体質なのだろうか。
そうやって目の前に居るー…うさぎ。うん、うさぎさんだ。うさぎさんの外見などを観察していれば、口に挟まっていたポッキーの揺れが大きくなり、ぽりぽりという音と共にうさぎさんの口の中へと消えていった。そうするとうさぎさんは鞄の中を漁り、一本のポッキーを僕に差し出して、既にお決まりとなった首を傾げる仕草をする。

「…いる?」
「………いただきます。」

思わず受け取ってしまったポッキーを眺めていれば、うさぎさんは近くのベンチに座って、こちらの様子を伺うように視線を送った。ちゃっかりと、ベンチの半分は不自然に空いている。
…これは、座れ、ということ…なのだろうか…?
そう勝手に解釈をしてうさぎさんの隣に座れば、うさぎさんは正面を見据えてポッキーを食べ始めた。僕もそれに倣ってポッキーを食べる。
…至って普通のポッキーだ。一本のポッキーは直ぐに食べ終わってしまう。暇になった僕は、空を見上げてぼーっとする。だけど、直ぐに僕の目の前にはポッキーが差し出された。うさぎさんに目を向ければ、ポッキーを食べながら僕を見上げていた。それを受け取れば、また正面を向く。僕はまたポッキーを眺め、一口食べた。…いちごだ。
一本のポッキーは直ぐに無くなる。そしてまた次のポッキーが差し出される。



ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり───...



何となく、僕はうさぎさんに訊いてみる。

「ポッキー、好きなの?」
「…今日は、ポッキーの日だから。」

うさぎさんの声は、淡々としていて、まるでポッキーを食べている時の音の様だった。
一本のポッキーを食べ終わった僕は、ベンチに背を凭れて、清々しいほどの青空の、遥か向こう側を眺める。日が暮れる様子は、まだまだ無い。
そうしてまた、新たなポッキーが差し出された。




そんなある日のアフタースクール


(トッポとポッキー、どっちが好き?)
(…ポッキー。)
(………。)













─────────────

時季が違うなんて野暮なツッコミはしないで下さい。m(..;)m



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]