日常
□one day such.
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物語は上がる事も下がる事も無く、平坦に流れていく。
大学に通っている男性の、何の変哲も無い日常。たまに運が良かったり、悪かったり。
だが、そんな日常も後数頁で終わりを告げてしまう。
一枚、薄い紙を捲る。
男性の日常は振り出しに戻ったみたいに、また始まろうとした所で終わった。
後書きや解説、他作品の紹介を軽く読み流して、本を閉じる。
ずっと読み耽っていたから、首が痛くなってしまった。一体、どのくらいの時間読んでいたのだろうか。
そう思い時計に顔を向ければ、時刻は午後一時半。
そういえば、お腹が減った。
昼食の仕度をしようか。今日は何にしようか。それにしても、随分天気が良いな…。
そうして私は、背中に感じる温もりに凭れながら、腕を真上に上げて大きく上体を反らす。
「あでっ。」
そしてそれは、後ろで私の背に凭れ掛かっていた人物の頭に当たった。
「いきなり腕落とすなよ。」
「気配で、分からない?」
「考え事してたんだよ。」
そう言って自称殺し屋さんは、再び私の背に凭れ掛かって、手に持っていたナイフをくるくると指で器用に回して弄び始める。
「なー、腹減ったー。」
「…何が良い?」
「……オムライス。」
殺し屋さんが、オムライス…。
「…今何か失礼な事考えなかったか?」
「…。」
首を軽く横に振れば自称殺し屋さんは不服そうな声を出して、また、ナイフをくるくると弄び始める。
彼は完全に私に背を預けている為、服とカーペットが擦れてさっきから少しずつずり落ちていた。そして、彼の肩が私の腰に当たった時、私は立ち上がる。
ごっ、と、鈍い音が直ぐ後ろから聞こえた。
振り返れば、後頭部を押さえて蹲っている自称殺し屋さん。
「だ、か、ら…急に、立ち上がるな、っての…っ。」
「…不法侵入の…罰?」
とは言っても、入って来た後はきちんと窓は閉まっており、鍵も締めてあるから別に良いのだけれど。
「んなもん今更だろ。それより腹減った。早く、オムライス。」
こんな人が殺し屋を名乗っていても良いのだろうか…。
自称殺し屋さんが言うには名の知れた殺し屋らしいのだけれど、私は実際に見た事が無ければ、それを確かめる術も無い訳で。
だから、私の中で彼はやはり、"自称殺し屋さん”だ。
…少し長いけど。
「いただきまーす。」
「いただきます。」
自称殺し屋さんのスプーンを口に運ぶ動作は止まらずに動き続ける。それ程までにお腹が減っていたのだろうか。
何にしても、不味くは無いみたいで何よりだ。
少々浮き上がった気分で自分の分を食べていれば、正面から声が掛かった。
顔を上げれば、空になった器を差し出して、口許に笑みを浮かべている自称殺し屋さん。
「おかわり。」
私の口許が少しだけ綻んだのは、言うまでもない。
昼食が済んだ私は、取り敢えず横になった。片付けは自称殺し屋さんがしてくれている。お礼を言ったら、そっぽを向かれてしまったけれど。
それにしても、今日は本当に天気が良い。午後は外出でもしようか。本屋にいって、雑貨屋に行って、食べ歩きをして……。
本当に今日は、気持ち良い、な─────
「………。」
先程俺が後頭部をぶつけた場所に、誰かが横になっていた。言わずもがな、この家の家主だ。しゃがんで顔を覗けば、どうやら熟睡しているようで。
「…おやすみ。」
そう投げ掛けて、俺も横になった。
(…ねぇ。)
(んー?)
(…動けない。)
(んー……。)
(……………。)
加筆修正:2013.7.12