Vent fort

□向風
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今年も、寛政大陸上部は夏を迎えた。
夏合宿も昨年同様、白樺湖で行われることになった。
ただ、バッティングセンターのオーナーの別荘では、増えた部員を賄いきれない。
そのために合宿の開催すら危ぶまれたが、部員と同じく増えた後援者と、大学の支援のおかげで合宿センターを借りることができた。
大会規定に沿ったトラックを備えているのがありがたい。

「さて、じゃあ荷物を置いたら軽く走ろうか」

3台に分かれて車を運転してきた15人は、点呼を終えた神童の言葉に、荷物を抱えた面々は指定された部屋へと入る。

「うわー、ひろーい!」

双子が大部屋の広さに歓声を上げる。
男子14人を軽々と飲み込む広さ。個人のプライベート空間こそないものの、広々とした部屋は開放的で、更にエアコンも入っていないのにひんやりとしている。

「ハナちゃんも一緒だったら良かったのにー!」
「バカ、そんなわけにいくか」

ニコチャンがジョージの頭を手にしたファイルではたく。
マネージャーで紅一点の葉菜子は一人で上の階を使っている。

「食事は一緒なのですから」

ムサも微笑む。
単純な双子は、それもそうだね!と笑っている。
その空気の中、走はそっとロンに目をやった。いつもとかわらぬ姿で、黙々とジャージに着替えているその姿は、やはり不機嫌そうにも見える。

「今日は湖の周りを走ろう。朝夕のジョッグコースになるから、初めてのものはしっかり道を覚えるように」
「神童もな」

主将らしく注意事項を挙げた神童に、ニコチャンがからかい混じりの突込みを入れる。

「あぁ、高志君方向音痴だから」

幼馴染のサンタは納得したように笑っているし、去年神童と一緒になって迷子になったムサも苦笑している。

「分かってますよ。来て早々遭難なんて笑えませんし」

自分の弱点を受け入れている神童は苦笑交じりに頷く。

「ジョッグを終えたら、アオタケはビルドアップ、シロタケはトラックを使ってペース走。シロタケのほうはニコチャン先輩が付いてくれるから、ムサと王子もアオタケに合流していい」

手早く指示を出す神童に、部員達は揃って頷く。それを見て、神童は満足したように頷き返すと、手を叩いた。

「さぁ、ジョッグ行こうか!」
 

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