〜異界の地で精霊に出会った〜

□第08話 失敗
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第08話 失敗
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 授業中、空間震警報と共に令音に呼ばれた。
「どうしたのだ龍燕?早く私達も行こう」
「すまん、用事ができた。先生、朔夜を頼みます」
「はい……って。な、何を言っているんですか?」
 龍燕は朔夜に俺は大丈夫だから避難してくれと伝えて、他の皆には技を見せるわけにはいかないので窓(三階)からひょいっと飛び降り、そのまま着地と同時に走り通信を通して方向の指示をもらった。


 着いた先は大型の店だった。空間震警報もあって電源を落とされ、店内は真っ暗だった。
「気配ではこの辺りだな」
「きみもよしのんをいじめに来たのかなぁ?」
 ん、と龍燕は声の方へ振り向くと逆さになって浮遊するよしのんの顔が目に入った。
「ダメだよー。よしのんが可愛いからってあんまりオイタしちゃ。……って、んん?」
 よしのんは話していた相手が龍燕と気づき、よしのは身体をぐるんと元に戻して床に降り立つ。よしのは龍燕が以前貸した貸した羽織を羽織っていた。それをよしのは脱いで龍燕に手渡す。
「あ、あの……この前はありがとうございました。とても……温かかったです」
「そうか。気に入ったなら今度丁度良いのを縫ってやるよ。もちろんよしのんのもな、お揃いで」
「ありがとー。それは楽しみにしているよ」
 龍燕は羽織を畳んで武己にしまう。
「そういえばどうしてここに?」
 よしのんが龍燕に聞く。
「そうだな、話がしたいなと、ね。まぁ外はうるさいハエが飛んでるが」
「ほほう。あの人達をうるさいハエね。なかなか龍燕君は凄いことを言うね」
「凄いかなぁ?そのままに言っただけだが」


 三人で話を続けて十分くらいが過ぎた。何故か龍燕は二人と話していて、双子の娘を……逢理と忍武を思い出してしまった。
「(二人は元気にしているだろうか……)」
「あ、あの……」
 不意に呼ばれた龍燕はん、と振り向く。
「どうして……涙を流しているんですか」
 涙?と呟き、いつの間にか泣いていることに気づいた龍燕は袖ですぐに拭う。
「ちょっと、な。二人と話していたら俺の双子の娘を思い出してな」
「龍燕君は娘がいたんだね」
「あぁ。養子だが……とてもいい子だった。また、会えるかわからないがな」
 龍燕は少し暗くなった。大切な娘以外にも家族や仲間達まで思い出してしまった。
 するとよしのは子供の玩具売り場へ走っていき、そこにあったジャングルジムを両足と右手だけで器用に登り始めた。その行動に龍燕は、よしのは話を変えようと行動でやり始めたのかなと苦笑した。
「わーはは。龍燕君、よしのんカッコいい?」
 最上段の棒組の上を歩き始める。
「おう、カッコいいぞ。でも足元滑らないように気を付けてな」
「うんうん。わかっているよ……あ、わ」
 よしのがよしのんのつけていた方の手を上げてしまったため、それでバランスを崩して落下した。
「危ない」
 龍燕は瞬動で近づき、床に着く前によしのを助けた。
「……」「……」
 数秒。長いような数秒、助けた拍子に接吻をしてしまっていた。よしのは無言で立ち上がる。
『わお。やるわね、龍燕』
 耳につけていた音声通信機から琴里指令の言葉が聞こえ、それで龍燕は今の出来事に脳で理解した。さらにその通信機から機嫌メーターの崩落する音まで聞こえてきた。
「ごめんごめん龍燕君。不注意だったよ〜」
 よしのんがてへっと謝る。それを見る限り不機嫌ではない。そして龍燕は琴里の声を聞いてハッとした。
『龍燕、緊急事態よ』
 龍燕は背後から感じる気配と視線に今更気づいた。
「……シエン」
 龍燕はゆっくりと振り返る。
「……今、何をしていた?」
「……今……」
 頭に先程の事が過り、龍燕は言葉が出なかった。
「あれだけ心配させておいて……女とイチャコラしているとは何事かぁぁぁぁっ!」
 朔夜が踏み出した一歩が中心に床を陥没させ、さらには龍燕に向けて放射状に亀裂が走った。
 龍燕は朔夜の気配に前ほど出はないが確かに混ざっていることに気づいた。以前琴里が言っていた『精神状態が不安定になると力が逆流する恐れがある』と。まさに今起きている事だ。
 朔夜は龍燕に視線を、よしのんのに指を向けた。
「龍燕。お前が言っていた大事な用とは、この娘と会うことだったのか?」
 龍燕は答えられなかった。それを見たよしのんが声を出した。
「……いやぁー、はやぁー……そぉーいうことねぇ……」
 今の言葉に朔夜がよしのんの方へ視線を向けた。
「おねーさん、ええと……」
「……朔夜だ」
「朔夜ちゃん。君には悪いんだけどぉ、龍燕君は君に飽きちゃったみたいなんだよねぇ」
「な……っ」「……?!」
 朔夜と龍燕は同時に息を詰まらせた。
「いやさぁ、なんていうの?話を聞いてると、どうやら朔夜ちゃんとの約束すっぽかしてよしのんのとこに来ちゃったみたいじゃない?これってもう決定的じゃない?」
「……っ」
 よしのんに指していた指から力が抜け、朔夜は肩をピクリと震わせた。
「お、おまえ、何を言ってんぐ!?」
 よしのんの発言に龍燕は声を上げるが朔夜に口を掴まれる。
「龍燕は少し黙っていろ」
 朔夜の言葉とともに、その手に力が入りギリギリと頬骨を締め付ける。
「やー、ねー、ごめんねぇ、これもよしのんが魅力的過ぎるからいけないのよねぇ」
「ぐ、ぐぐ……っ」
「別に朔夜ちゃんが悪いって言っているわけじゃぁないのよぅ?たぁだぁ、朔夜ちゃんを捨ててよしのんの元に走っちゃった龍燕君を責めることもできないっていうかぁ」
 よしのんの続けて言い出る言葉に、龍燕は段々と辛くなってきた。

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