ショタ注意。 「男ってのはなあ、涙を見せねー生きもんで在り続けなきゃならねんだ」 膨大な記憶の中の、膨大な言の葉の中の、たった一言が僕のすべてだった。 五歳。これが僕のピークだ。 パパは、名だたるの貴族が軒を連ねる英国でも、女王をして曲者と言わしめる男爵の血筋を引いていた。ママは、一般庶民から男爵令嬢への玉の輿に乗った、いわゆる成金だった。シェークスピアがどう言おうが知ったことじゃないが、パパとママは僕が六歳になって早々に離婚した。 「この子、まだ読み書きも出来ないんです」 遊園地に行くんじゃないの? お馬さんに乗るんじゃないの? 「私はこれから従軍慰安婦になるつもりです。核兵器を作っていたんですが、これではお話にならない。公募が広いから、人が余って賃金が追い付かないんです」 誰と喋ってるの? イアンフって何? 「この子を手放します。今日をもって母親ではない。次に逢うときは、息子に犯されるときです」 それは一瞬だった。乳飲み子の頃、乳母に読み聞かせられた大天使の物語。彼らが神を見つめる、鋭くも柔らかい七色にも光る瞳にそれは似ていた。 「ママ、ママ」 「わかりました。お任せください」 「ママ、ママ」 「ありがとうございます」 「ママ、ママ」 「児童特別養護に準じましょう。保護年齢を13、16、19で選択できますが、如何なさいます?」 「十三歳までお願いします」 「結構」 「では」 「ママ……?」 僕は抗論できずにいた。似て否なるひどく冷酷な女性がそこにいたからだ。悪魔だと言うならそうだったのかもしれない。僕のかけがえのない、たった一人の肉親はものの五分で赤の他人になった。 |