「それで、暴れん坊伯爵が」 目は合わせていない。身体が触れている訳ではない。同じ事を考えている訳でもない。フィニは暴れん坊伯爵のことで頭がいっぱいだし、俺はフィニの裸体で頭がいっぱいだ。 「もうめちゃくちゃカッコイイんですよ」 「へえ」 「許婚を悪男爵から奪い返して」 「ふん」 「でも一番いいところで、セバスチャンさんったら僕にお遣い頼んじゃうんですよ。もう、セバスチャンさんの意地悪」 「はあ?」 吐息に音を混ぜたような、ひどく素っ頓狂な声が出る。オチがないとか話が変わっているとか、そうではない。 長というのは本当にいいご身分だと思う。こんなにも慕われて、こんなにも思われて。俺は不出来な人間だから、たったそれだけに嫉妬心とか独占欲とかいろんなのが零れてだめになる。この際、もともとだめなのは棚に上げてもいいだろう。 「あとちょっとだったのになあ」 付き合っているわけではない。同性であるし、同職である。当初、俺の心臓を貫いた背徳意識は並大抵のものじゃなかった。 「それなら俺が教えてやるよ」 でも、もう忘れた。俺の頭の中のフィニは、挿れてくれ、犯してくれと懇願してくる始末。同室として堪えられるのは、精々一週間と高を括って早一年。俺も大分毒漬きやがった。 「偶然観たんだ、ラストだけだけどな」 幸か不幸か、フィニは抜群の鈍さと信用しやすさを持て余している。これほど悪魔の囁きが怒鳴り声に聞こえることは、金輪際ないと思った。 「狡いですよ。教えて下さい」 皮肉なまでの脳内フル回転。策略が前頭葉を巡る。 「ああ」 今だ、犯れ。 「え、バルド、何、え?」 フィニをベッドに押し倒す。しどけなく投げ出された肢体だけで、俺の股間は容易に勃起した。想像の何倍もえろい。 「伯爵は馬車に乗って帰ったんだっけ?」 「え、あ、はい。そ、ですけど」 半端な丈でいつも俺を苛立たせるズボン。妄想の中で何度も手を掛けたパンツ。頭より先に手が動いているのが、俺はおかしくて仕方なかった。こんなのうまく行くはずがない。 |